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イグス、港湾の脱炭素化に貢献

陸上給電の難問を可動樹脂部品で解消

港湾にもカーボンニュートラル(CN)が求められている。海事分野のCNと言うと水素船や硬翼帆(こうよくほ)の活用などが思い浮かぶが、欧州を中心に船舶だけでなく「港湾」にも環境対応を求める動きが加速している。

イグス・港湾事業責任者のMartin氏(左)と日本事業のプロジェクトマネージャーを務める山下氏。川崎港の陸上給電設備に納めたケーブル接続システムは一人で作業できる重さに仕上げた

モーション・プラスチック(機械の可動部などに用いる樹脂製品)などを手掛けるイグスは、港の脱炭素化を目指す「カーボンニュートラルポート(CNP)」の推進にグローバルで尽力し、日本での取り組みにも力を入れる。

CNP実現に重要となるのが、停泊中の船舶のアイドリングストップ。一般的に船舶は港に停泊時もエンジンを動かし船内に電力供給している。停泊中の船舶からのCO2排出量は港湾地域から出るCO2の約3割を占めるとも言われており、CNP実現には船舶のエンジンをいかに止めるかが重要になる。

港側から電力供給する「陸上給電」はエンジンの代替として最有力。港側から供給する電力を自然エネルギー由来に切り替えることで、CNP実現に大きく近づくことができる。

しかし、ここにイグス・港湾事業責任者であるMartin Tiling氏が唱える「接続のジレンマ」がある。港には船体サイズや給電点が異なる様々な船舶が入港するとともに、潮の満ち引きによって海水面が刻々と変化するため、電力の供給ポイントを固定できない。陸上の電源設備と船舶の給電ポートを結ぶ数十㍍にCNP実現の難しさがある。

「コンテナ船側と港側のケーブルを接続する必要があるが、つなぐ場所を固定できないため設備の固定化や自動化が難しく、重いケーブルを人力で運ぶ必要が出てくる」(Martin氏)

実際、イグスがケーブル接続システムを納入したドイツ最大の港・ハンブルク港では約400㍍にわたる岸壁において、各船舶に給電ケーブルを接続する必要があった。同社はフェリーや沖合補給船など様々な船舶への陸上給電システム納入の経験を活かし、岸壁に沿ってケーブルを船舶との接続位置に簡単に移動できる世界初のコンテナ船用のモバイル接続システム「iMSPOigus Mobile Shore Power Outlet)」を開発した。

「当社の製品を活用することで、ケーブルの適切な保護、汎用ケーブル活用によるコスト低減、ケーブル重量の軽量化を実現した」(Martin氏)

■高まる国内需要

日本はCNP化への対応が遅れていたが、ここにきて動きを加速させている。昨年度、国土交通省はCNPに関する予算を前年度に比べ2倍近い664億円に拡充した。同社・日本国内港湾事業のプロジェクトリーダーを務める山下茂樹氏は「港湾法で規定されている船舶に対する動力源供給に関する定義に陸上供給用の設備が想定されていなかった点が日本固有のボトルネックになっていた。昨年、港湾法が改正されたのでこれから導入が本格化していく」とみる。

同社は法改正に先駆けて224月に神奈川県川崎市に陸上給電設備用のケーブル接続システムを納入。これは、日本初の陸上給電設備であるとともに、EVタンカーに対する高速充電用の陸上給電設備としては世界初。

「これまでグローバルで展開してきた実績が評価されるとともに、川崎港の軟弱な地盤に当社の軽量なシステムがマッチした」(山下氏)

国交省は2月、CNP化を重点的に推進する港湾脱炭素化推進協議会の設置数を71港から77港に増やした。Martin氏は「欧州では28年までに主要5港(ハンブルク、ブレーメンハノーファ、ロッテルダム、アントワープ、ル・アーヴル)で14000コンテナ以上積載可能な船舶に対して陸上給電の義務化が決まっており、国際規格『IEC-80005-1』もまとめられつつある。日本は少し遅れているが、政府の手厚い支援もあり今後動きが加速していくとみている」と期待を寄せる。山下氏も「東京港や横浜港、名古屋港、神戸港などコンテナ船や客船、自動車運搬船が集積する地域を中心に事例を増やし、全国に広げていきたい」と具体的な展開を描く。

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川崎港で使用されているケーブル保護管「トライフレックス TRE.125型」の一部。保護管の一部が開いたものを使用することで、内部の排熱を促すとともに、ケーブルのメンテナンス・交換を素早く行うことができる

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