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堀尾製作所、日本屈指の亜鉛鋳造会社

高い金型転写性、100万ショットも

鋳造した手のひらサイズの亜鉛部品が5~10秒おきに1つ、また1つと確実にベルトコンベヤ上に排出される。幅2㍍ほどの小柄なダイカストマシンが卵を産み落とすようでなんだかかわいらしい。でも暑い。

旭山のふもとに立地する本社工場。奥に見えるのは金型工場

[亜鉛ダイカスト部品の製造販売] 
宮城県石巻市

「夏はこんなものじゃないですよ」

亜鉛ダイカスト部品を製造販売する堀尾製作所(1968年創業、社員38人)の堀尾俊一企画室長はそう話す。4月の取材でよかった。稼働するダイカストマシンを目の前で見られる。ダイカストといえばアルミを思い浮かべるが、同社は亜鉛に特化。石巻市と中国大連に工場をもち、「元気なモノ作り中小企業300社」(経済産業省、2006年)、「地域未来牽引企業」(同、20年)などに選定された。

9面あたりアジア版一般【挑む加工現場】堀尾製作所(亜鉛ダイカスト)P2.jpg

所狭しと並ぶ亜鉛ダイカストマシンを紹介する堀尾俊一企画室長

仙台から北東へ車で1時間半。堀尾製作所は石巻市の旭山のふもと、県立自然公園旭山のすぐそばに立地する。創業者である堀尾室長の祖父が「自然公園のなかに工場をつくりたい」という夢を叶えたかたちだ。森林のなかで働けるのは気持ちがいいですねと声をかけると、「春は花粉、夏は酷暑。秋は枯葉、冬は積雪。けっこう大変です」と堀尾室長は笑う。

日本のダイカスト製品のなかでアルミは質量ベースでおよそ95%を占めるのに対し、亜鉛はわずか4%にすぎない。だが亜鉛ダイカストの利点は多い。流動性が高く金型の転写性がよい(最小0.2㍉に薄肉化できる)。亜鉛はアルミほど射出圧力を必要とせず精密な成形が可能なためバリが出にくい。溶融温度はアルミの約600℃に対し、亜鉛は約420℃と低く、省エネで設備・金型のもちもいい。「アルミは10万ショットが一般的だが、亜鉛なら80万ショットは打てる。100万ショット以上も珍しくなく、金型の更新費も抑えられる」と言う。製品の半分ほどは金メッキ(通電性向上)やニッケルメッキ(耐食性向上)などを施すが、鍍金付着性でも亜鉛は優れる。

こうした利点から利用範囲は広がり、ボリューム調整スイッチなどの車載オーディオ部品、ゲーム端末の機構部品、テレビの分配器などを同社は製造。多品種に応える日本で月に200万個、量産する大連で500万個生産する。設備するダイカストマシンは型締力5~85㌧の33台。大連工場には5~25㌧の38台が稼働する。堀尾室長は「亜鉛に特化してこれだけ設備するところは日本に5社もないだろう」と見る。

■金型設計・製造も

55年前。大手電機メーカーのアルプス電気(現アルプスアルパイン)のオーディオとゲーム機部品を製造するため埼玉で操業し、その工場移転に伴って堀尾製作所も1976年に東北に工場を移した。「車載オーディオ部品はタッチパネル化してなくなると言われるが、根づよく残っている」そうで、今では30社ほどからコンスタントに受注する。当初は受注先から金型を支給されたが、企業価値を高めようと金型設計・製造(製造は一部、協力会社に委託)も担うようになった。

最大の課題は外観検査に人手がかかっていること。大連では社員約120人の半数が検査にあたるほど。日本では協力会社に頼っているが、作業者の高齢化が進む。同社は日本で2次加工の一部をロボットやコンベヤを使って自動化しており、これを検査工程にも広げる考え。またチャイナリスクに備えるため、東南アジア方面で生産拠点をもつことも検討中という。

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鋳造したオーディオ部品

2024515日号掲載)