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C&Gシステムズ 代表取締役社長 塩田 聖一 氏

日本のモノづくりとCADCAM

有史来、モノは「設計→製造」という過程を経て作られてきた。いま「設計・製造」を担うのは疑いなくCAD/CAMだが、国内専業メーカーは片手で余る3~4社ほどしかない。翻って世界を見渡すと、過去10年ほどM&Aの嵐が吹き荒れ、今はこれまた片手で余る3~4社の巨大企業で世界市場を牛耳る格好だ。工業製品の設計製造は、世界大手ソフトに頼るしかないのか。
ここでひとつ気になるのは、国産CAD/CAMメーカーが今後どんな道を歩もうとするかだろう。国内リーダー企業のC&Gシステムズを訪ね、塩田社長に話を聞いた。

■GNTでデファクトを狙う

――CADCAMの世界も、ごく少数の欧米企業が世界市場を席巻しています。かつては日本が製造系ソフトで世界をリードしようと国家プロジェクトも実施されましたが。

塩田 今はもう世界市場の寡占化というキーワードの中で物事を考えるべきでしょう。当社では標準化されたシステムに対し、それを「補う技術」の提供を戦略の一つとして強化中です。

――世界標準のシステムに付加価値をつけるような形ですね。

塩田 社内でグローバルニッチトップ(GNT)と言っているのですが、他社に真似されないニッチな特定技術で競争優位を保ち、これを市場に提供しています。提供の仕方としてデファクト化したソフト、具体的に言えば基幹CADNX」や、ミッドレンジCAD「ソリッドワークス」に当社のCAMをアドオンするといったことを進めています。

――NXもソリッドワークスもユーザー数は膨大で「補完ソフト」の可能性もそれだけ大きいと。

塩田 はい。同時にそうした私どものニッチな技術もまた、デファクト化する必要があります。オープンを指向し、他のいろんなソフトとデータ連携すればユーザーメリットにもなる。私どもはAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を駆使しながら取り組んでいます。

――デファクトという点では、御社のいわばとんがったCADCAMエンジン(カーネル)を利用して組み込みソフトを提供するベンダーや機械メーカーも多いと聞きます。

塩田 おかげさまで利用いただく会社は切削系だけでなく付加加工(AM)のソフトでも増えています。社名を言えないのが残念ですが(笑)。

――そうやってニッチ分野で、あるいは表からは見えないところで存在感を出し、デファクトを形成していく方向なのでしょうね。

塩田 ええ。ここで大きなポイントはどこにフォーカスするかでしょうね。フォーカスのあわせかたが大事です。

■変革の背景にインフラがあるが…

――デジタルツインやDXにフォーカスしてプロセスを変えようといったことは今、盛んに言われているわけですが。

塩田 昔CIMということが言われ、その後ITだ、IoTだ、DXだと言葉は変わっているんですが、やろうとしていることは昔から変わっていませんよね。

――同感です。

塩田 変わったのは、デジタルのインフラがもの凄く安くなって、ネットワークが早く動き、端末も手軽に使えるようになったこと。またITに慣れた人材が増えたこと。私どもとしてはそうしたインフラの恩恵を受けながら、しかしインフラにフォーカスするのではなく、グローバルニッチトップにつながる何かにフォーカスしていくことが大事だと思っているわけです。

――では御社の事業の中で、具体的にどんなところにフォーカスを当てて取り組まれているのか。

塩田 例えば大学とAIの研究を開始して随分になりますが、金型設計のAI化をテーマに「形状認識技術」や「金型構想設計の最適化技術」などに絞って研究に取り組んでいます。また強化中の生産管理システムに関して言えば、ユーザーサイドから見てこれまでカスタマイズに時間もコストもかかったわけですが、基本パッケージをベースとするシステムに変えました。導入しやすく発展も可能なシステムにするということにフォーカスをあわせたわけです。

■デジタル時代の日本製造業の可能性は

――ニッチとか、特定分野にフォーカスと言った話が続きましたが、大きな視点でみてデジタル時代の日本製造業をどうみられます。

塩田 チャンスは大いにあると見ます。私どもが指向する精密分野を見ても、チャンピオンデータだと中国、アジアなどが凄い結果を出していますが、精密な製品を10万個バラつきなく安定生産するといった技術は断然、日本が長けています。また近年までモノづくりは人件費の安い国に流れていったわけですが、いまは国際サプライチェーンの見直しが進み、円安で日本回帰の兆しも高まっています。

――いまこそ日本の製造業はデジタルで競争優位を身につけたいですね。

塩田 私は、デジタルやAIがモノづくりの78割を支えるとしても、残る23割は今後も人の思考力や経験がモノをいうと思っています。思考しながらモノを作る、そこを支援するのが我々の役目です。そういう人の能力・技術で相対優位に立てている間にこそ、デジタル強化し、日本製造業の競争力を際立たせて欲しいですね。

2022725日号掲載)