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中村留精密工業 中村 匠吾 社長

開発型企業の矜持が詰まった新鋭機

中村留精密工業の開発スピードが緩まない。近年は機械・ソフト・周辺機器の全領域で新技術を立て続けにリリース。その象徴が先般閉幕したMECT2023で、発売から1年足らずの工作機械を3台ブースに並べてみせた。うち1台「WY-100V」はフラッグシップ機に位置付ける自信作であり、つまり質を犠牲にしているわけでは毛頭ない。質と速さをどのように両立しているのか。同社の開発思想と、それが詰め込まれたWY-100Vの特長を中村匠吾社長に聞いた。

中村匠吾社長と「WY-100V」。速さと精度に加え、複合旋盤としては珍しく潤滑油の97%をグリスに置き換えるなど独自の強みを数多く備える

「これからの中村留を象徴する機械です」。2タレット複合旋盤の新たなフラッグシップモデル「WY-100V」を中村匠吾社長はそう表現する。

「最速の、その先へ」を志向する同機の姿をMECT会場で目にした人も多いだろう。C軸割出やワーク受け渡しなど一つ一つの動作が俊敏かつ切れ目なく行われ、目を奪われるうちにデモが終わってしまう。同機最大の特長は速さであり、実際に複雑な油圧バルブ部品のサンプルワークでサイクルタイムを従来機比30%も削減。アイドルタイムだけを削る15以上のソフト機能を総称した「クロノカット」や、ミーリング回転の高速化、トルクアップなどの総合力がこれを実現へ導いた。

例えばタレットひとつでも、同機のように加工範囲を広げるためコンパクトなデザインを保ちながらミーリングの回転数を上げるのは容易でない。これを可能にした理由を中村社長は「ユニット設計が複合加工機に最適化されているから」だと話す。「例えば1タレット機に開発の軸足を置くと、マルチタレット機にも同じタレットを載せたくなる。しかしそれではユニット単位のパフォーマンスが最適とは言えません。我々は複合加工機に開発リソースを集中できます」。複合加工機に全力投球する同社だからこそ、細部まで最適化した渾身の1台を世に問えるということだろう。

WY-100Vの開発にあたり、同社は機械の基本構造から見直しを行った。具体的にはベッドを刷新。それに応じて他の構造、場合によっては素材も変更したのだ。

「機械構造をシンプルに設計し直したことで熱変位の傾向が素直になり、予測精度が上がりました」(中村社長)。同時に熱変位補正システムも刷新。熱源の多い複合加工機ながら8時間連続加工時の経時寸法変化を3㍈に抑えられるようになった。精度の良い完成品をテンポよく量産すれば現場に余裕が生まれ、まさに中村社長が重視する「現場の負担を削る」ことに直結する。サイクルタイム30%短縮という明確な強みの裏には、メカにも制御にも妥協せず技術を積み上げる同社の開発姿勢が垣間見える。

■ヘルシーな議論が 国際競争の勝ち筋

「我々は今も昔も開発型の企業です」と中村社長は迷いなく言い切る。「新しい物を世の中に提示し、付加価値を認めていただくというスタンスは昔から不変。リソースが10あれば4割を注ぐほど開発は重要で、売れるために単にスペックを上げたり、化粧でごまかすなら中村留の機械である必要はありません。何より重視すべきはお客様の感じる負担をストレートに解決できるか。それが達成できればすなわちお客様にとっての価値となり、自ずと売り上げも付いてくると考えています」

経営者の立場だが、あくまでいちプレイヤーとして開発にも参画。WY-100Vの開発ミーティングにも毎週のように出席し、フラットな目線で議論を交わして製品を形にした。「ヘルシー(健全)な議論で意見を出し合うのは本当に大切で、逆にぬるい開発をしてもハードな国際競争には勝てません。開発部に限らず私も含めた様々なメンバーが率直な議論を交わし、合意を形成するプロセスを重視しています」

冒頭にも述べた通り、外から見る限り同社の製品開発はすでに相当のスピード感があるように思える。しかし中村社長は「一般的には早いと感じるかもしれませんが、個人的には質もスピードもまだまだ高めないといけないと思っています」と課題感を口にした。

「例えばコミュニケーションの質を高めたり、機械づくりのポリシーを今より明確に固めるなど、まだまだやれる要素はある。開発したいものは山ほどあり、そういう意味ではもう少しプロジェクトチームの規模を増やしたいとも考えています」

ちなみに同社は開発者や設計者を随時募集しており、リモート採用で石川県外から開発チームに加わることも可能という。「開発では大変に感じることもありますが、世界を変えられる。非常に面白さがあります」と呼びかけた。

(2023年12月25日号掲載)