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明治機械製作所 代表取締役社長 佐伯 直泰 氏

エア技術にこだわり100年、エンドユーザーに応える「特注品」を新たな柱に

明治機械製作所の100年は、エア技術のノウハウ蓄積と共に歩んだ時間だった。1931年にコンプレッサの自社開発を開始、翌32年には塗装機の試作に成功するなど、エア技術を追求しコンプレッサとスプレーガンの両軸体制で歩みを進めてきた。同社が次に強化するのは特注品対応だ。エンドユーザーの声に焦点を当て、自社技術と紐づけた特注品の受注比率を高めるため、効率的な人員配置を行う。節目を超え、新戦略で次のマイルストーンを目指す同社のこれからを、佐伯直泰社長に聞いた。

明治機械製作所の前身である明治商会は1924年に大阪の地で、欧米の工作機械の販売を行う商社として生まれた。海外製のスプレーガンを輸入販売する代理店権を得たが、当時の日本の塗装は、刷毛塗りが主流。今の塗装で求められる「美観」や「機能」といった意識が生まれる前で、輸入品で高価なスプレーガンの普及には壁があった。 そこで自ら旗をあげ、国産スプレーガンの製造に着手。同社の長い歴史を支える「エア技術」の始まりとなった。

37年には現在の本社がある大阪市淀川区に工場を構え、本邦初の塗装機を生産開始。これに伴い、エアコンプレッサの製造も開始し、45年の改組により今の明治機械製作所の姿となった。

戦後の高度経済成長の風を受け、コンプレッサ事業が拡大する。

「電気やガスと同じく、圧縮空気は工場における様々な動作で必要不可欠。工場の数だけコンプレッサがあります。自動車や弱電関係の産業が伸び、裾野が広くなり対象になるお客様が増えました」と佐伯直泰社長は当時の勢いを語る。

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主軸製品のレシプロパッケージコンプレッサ「DUAL AIR PAX」(右)とハンドスプレーガン「FINER CORE」

しかし時代を経て、準工業地帯の淀川区に住宅が建ち並ぶようになり、アジア通貨危機といった景況も合わさり、岡山の工場に生産拠点を統合。試作用のNC旋盤や、複合機などの設備を拡充しつつ、コア技術が必要な部品製造以外を協力工場に移設。組立工場として体制を整え経営を効率化した。

また、価格競争が激化する海外で、スプレーガンの新たな市場を開拓すべく中国とアメリカに目を向けた。そこで、新たな活路に出会う。

「政府による環境規制が厳しい中国では塗着効率のよいスプレーガンが求められ、価格ではない性能重視で多く引き合いをもらいました」

アメリカでは新たな転機を迎えた。

「ラスベガスで開かれるカスタムカー展示会(SEMAショー)をきっかけに、ハンドスプレーガンを欧米市場に合わせて製品改良しました。非常に好評で、千単位の受注をいただいて、今では生産が追い付かない状況です」

と、活況な米カスタムカー市場の塗装に照準を当てていくことになった。

看板製品の「FINER CORE」は「工業デザイナーさんと共に、握り心地やデザインの意図と、実現性の均衡点を数年かけて探って実現させたデザインです」と佐伯社長は話す。手元に重心が来るように設計し、作業者の負担が軽く噴き易さにもこだわった。独自の高微粒化技術(MMFT)による最適化微粒子化性能も大きな特長だ。

■特注品で独自の立ち位置へ

今、同社では競合他社との差異化要素を強めるためエンドユーザーの声を反映した「特注品」に注力している。

「スプレーガンは塗料との相性が大きい。しかしスプレーガンのバリエーションに対して塗料の種類がはるかに多く、エンドユーザーが求める仕上がりを実現できるわけではないのが従来でした。そして大手メーカーにとって、少数生産は採算が合わず手が伸ばしづらい領域。我々は数丁からでも、合わせたものを作ります」と、カスタマイズ品に積極的に対応する姿勢を示す。

すでに大きな実績となった事例もある。自動車の主要部品に噴き付ける高価な塗料のスプレーガンを、エンドユーザーの声に合わせてトライ&エラーを重ね、望む仕上がりで実現した。塗着効率が上がり、年間2千万円もの塗料代を削減できた。さらにそのスプレーガンが海外工場でも標準品となった。

大手メーカーでは対応できない案件に小回りの良さを発揮し、「価格ではないところの商売」で勝負する。

製販体制の見直しも行った。「塗料の専門知識が深い技術員を、東と西に一人ずつ配置し、営業は案件を取ってきたら社内で相談し技術的に煮詰めてから製品化します」

もう一つの主力事業のコンプレッサにも、生き残りをかけて差別化を図る。加工機用アシストガスを昇圧するための高圧コンプレッサや、船舶向けの高圧コンプレッサ開発にも力を入れている。

そして佐伯社長がいつか作りたいと描いている「スーパーレシプロコンプレッサ」も100年の節目を超えた先の目標と言う。

「例えば、少しでも高い圧力で空気を吸い込むことが出来れば風量は増えます。ターボのように若干高い圧力で吸込むようなイメージで、それが可能になればスクリューに負けない風量を生み出せます。低ランニングコストと低メンテナンスコストがかなうようなコンプレッサ製品開発をいつか実現したいですね」

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エアブラシアーティスト・Nory氏(右)による100周年記念作品は本社に飾られる

2024210日号掲載)