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オンラインとリアルのユーザー支援を強化

牧野フライス製作所 執行役員 加工技術本部 本部長 須藤 泰雄 氏

切削加工機にとどまらず放電加工機、CADCAM、ロボットなどを提供する一方で昨年、レーザー加工機を上市して話題を呼んだ。今年5月には独自開発の工具・取付具・測定具・ソフトウェアなどの商品群ブランド「SMART TOOL」の販売を始めた。事業領域はどこまで広がるのか。

-生産財市場が上向きです。復調著しい製品と販売先は。

「受注はコロナ前にほぼ戻りました。見通しが立たなかった去年の今頃は在庫削減に向かっていましたが、今は半導体やエレクトロニクス、医療関係、ロボットなどの復調が顕著です。自動車関係ではやはりEVに関わるモーターケース、インバータハウジングなどの開発投資が忙しいように思います」

-オンラインとリアルの営業活動をどう使い分けていますか。

WEBミーティングシステムを活用した面談、オンライン展示会やオンラインセミナーのような新しい営業ツールを積極的に活用しています。特に毎週欠かさず実施中のオンラインセミナーは、案内を出すと毎回瞬時に募集定員300人の枠が埋まってしまうほどです。1人のエントリーで社内の生産技術関係者20人くらいで毎回聴講されるお客様もいらっしゃいます」

-テーマ設定など準備が大変そうです。

「営業本部内にコンテンツづくりを担う『デジタルマーケティング部』とカタログ・見積りなどを顧客へ送付するなどしてアウトサイドセールスを支援する『インサイドセールス部』を設立し、活動を強化しています。ユニークなのは、当事者が皆、これらの活動を単なる道具として位置づけていること。これと並行してアナログ的な活動も強化しています。その1つが加工技術本部のエンジニアによる顧客の現地支援。やはり現地現物でないとうまくいかない仕事もありますので。以前と違うのは、事前にWEBでお客様とディスカッションして課題を洗い出して解決手法を準備してから出張するので、ゼロから始める出張作業が激減しました。これもDXのひとつの効果かもしれません」

「商社さんとの関係も変わってきました。これまでは当社製品を販売していただく一方向の関係が強かったのですが、最近では商社さんに部材調達の手伝いをしていただく、工作機械周辺技術を紹介していただく、あるいはコラボして共同開発するといった双方向の関係に変化しています」

■開発段階でユーザーの 顔は見えている

-販売を開始された「SMART TOOL」は工作機械の性能を引き出し顧客の利益を最大化するそうです。これまでの手応えは。

SMART TOOLはお客様の現場の課題を解決する道具、という位置づけで立ち上げた新たなブランドで、現在約60テーマの開発に取り組んでいます。手始めに半導体製造装置などで使用される真空装置部品のシール部分を高精度に仕上げるための3種を発表しました。想定以上のお問合せをいただき、少しずつですが注文もいただき始めました。ただ、社員には決して販売を急ぐな、とクギを刺しています。もともと課題解決のための道具ですから、引き合いをいただいても、当社のエンジニアがお客様に出向いて実証実験をしてからご採用いただくことを基本にしています。難易度の高い特殊な工程での課題を解決するものなので、開発段階でお客様の顔が見えています。まずは、本当に効果があるのか、ご購入いただく価値があるのかの判断をしていただきます」

-自動化やAIの過度な利用には賛否両論あります。貴社のお考えは。

SMART TOOLの開発の一部にも実は数年前からAIを活用しています。AIを活用する際、まずはどれだけ過去の経験や知見をデータとして保存しておくかがポイントで、そこをしっかり準備しておけばAIで最適解を求めることは非常に簡単でしかも安価です。過度な利用は『考える力が失われる』との指摘もありますが、むしろ逆だと思います。データ化しただけではどう活用してよいかわかりません。効率的な活用方法をベテランから若手まで集まって毎日のように知恵を絞って考えてくれています。そこで生まれたアイデアを具体化するのにAIを使うと効率的というだけ。あるいは、人が新たに考えて取り組んだことが正しいか、AIにも判断してもらうこともできます」

-今後需要が期待できる分野とその分野に最適な製品は。

「やはりマス・プロダクションからマス・カスタマイゼーションへの市場要求の変化を強く感じています。自動化と言うと、モノをロボットで運ぶような単純な話ではなくて、『将来の自動化を見据えたボトルネック解消のお手伝い』がマキノらしいやり方だと思っています。たとえば加工機に自動でワークを交換する前に、先に設計やプログラミングの工程の自動化を目指したらいかがですか、という提案です」