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アサダ 営業本部 商品担当マネージャー 増田 大季 氏

冷媒不足を防止せよ

「このままでは近い将来HFC(ハイドロフルオロカーボン)の使用量が生産量を上回り、既存の空調や冷凍設備の一部が使えなくなる事態が起こりえます」。そう警鐘を鳴らすのは、フロンの回収・再生装置などを手掛けるアサダ(名古屋市北区)営業本部商品担当マネージャーの増田大季氏。一般的な冷媒として知られるHFC類の生産量を、国際的な取り決めによって24年から大幅に減らさねばならないことに危機感を募らせる。目前に迫る「崖」に備え、足元ではHFCの回収・再生装置や冷媒漏れを防止する製品の需要が高まりつつあるという。

鍵は再生と漏えい対策

――フロン類の回収・再生装置の需要が高まっていると聞きます。背景を教えてください。

「そもそもの発端は19年に発効した『キガリ改正』という国際的な取り決めによるものです。これは一般的な冷媒として使用されているHFC類の段階的削減を各国に義務づけるもので、日本を含む先進国にはとりわけ早いペースでの削減が求められています。日本で現在認められているHFCの生産量は年間6436万㌧-CO2ですが、24年からはこれを4291万㌧-CO2に、さらに29年からは2145万㌧-CO2まで減らさねばなりません。19年の日本におけるHFCの使用量実績は4754万㌧-CO2ですから、早ければ24年にもHFCの使用量が生産量を上回って既存の空調などが使えなくなる事態が考えられます。そこでフロン類の再生が注目を浴びているんです」

――再生したHFCはキガリ改正の対象に含まれないのですか。

「ええ、既存冷媒の再生は生産量にも使用量にもカウントされません。そうした背景から我々のフロン回収・再生装置『エコサイクル オーロラ』の販売も右肩上がりで推移しています。生産を一部前倒しし、生産ラインを増やすことで対応しています」

――エコサイクル オーロラの特長は。

「使用済み冷媒を999%の純度で再生できることです。再生冷媒の販売は登録制で、冷媒中に含まれる水分や油分などを規定の純度まで除去する設備がないと登録を受けられません。水分と違い油分はフィルタでの除去が難しく、そのため類似製品の大半はあくまで自社での使用を想定した簡易再生装置にとどまっています。しかしエコサイクル オーロラは『帯電分離式』という静電気を利用した独自のシステムで油分を分離・除去し、規定値を上回る高い純度の冷媒再生が可能です。導入した多くのユーザーがすでに再生フロン販売の登録を受けています」

――どういった事業者が導入していますか。

「多いのは空調の修理業者様ですが、企業規模は様々で大手もあれば社員数名の中小事業者様に購入いただく場合もあります。エコサイクル オーロラは小型かつキャスター付きで持ち運びできますが、私の知る限りここまで小型で安価な再生装置は他にないのではないでしょうか。フロン類の再生業には大がかりなプラントを用いた蒸留再生という手法を用いるのが一般的ですが、それと比べて初期費用を数十分の一に抑えられます」

――HFCの生産量が減ることに対する業界の危機感はいかがでしょう。

「私の肌感覚ですが、国や大手メーカーが強い危機感を抱いている一方で、ユーザーや販売店ではそもそもキガリ改正によるHFCの生産削減を知らないケースが散見されます。また冷媒不足の危機を乗り切るにはフロン類の漏えい防止も重要なテーマで、我々の『ナイログ』という継ぎ手部分の冷媒漏れを防ぐ商品が年間約10万本を出荷する大ヒット商品になるなど関連需要も右肩上がりで伸びています。そもそも冷媒使用量が減らない主な要因のひとつは冷媒漏れによるもの。冷媒漏れの約7割は機器の稼働時に発生しており、稼働時漏えいを減らさなければいくらフロン類を再生しても遅かれ早かれ冷媒が足りないという事態に陥ります」

――冷媒不足を防ぐためには複合的な取組みが求められるのですね。

「冷媒漏れの対策や再生のほかにも、GWPCO2の何倍の温室効果があるかを示す値)がHFCよりも低い低GWP冷媒や、CO2やアンモニアといった自然冷媒への転換をメーカー各社が急ピッチで進めています。しかし既存設備で新冷媒が使えるかは未知数で、使えなければ空調や冷凍設備を更新しなければならず費用負担をどうするのかという現実的な問題も持ち上がります。いずれにしてもHFCの生産削減はもう目前ですから、メーカーとユーザーが一丸となって準備を進める必要があります」

オーロラⅡ.jpg

小型で高純度のフロン再生が可能なエコサイクル オーロラ

(2023年1月25日号掲載)