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識者の目

製造業DX実現のカギ~第20回

エンジニアリングチェーンのDX

エンジニアリングチェーンのDXは、サプライチェーンのDXと並び、製造業DX実現におけるもう一つの柱である。むしろ、工場を持たれている企業の場合はこちらの方が経営に与えるインパクトは大きい。

バーチャル工場とリアルの工場を繋げる

製造業全体を俯瞰して考えた場合でも商品企画から、製品設計、工程・設備設計、ライン設置、生産準備を経て、生産に至る部分部分の工程のデジタル化は進んでいるものの、それらが断絶してしまっているために発生している損失は甚大である。この領域をデジタルでつなげ、DXを実現することによるプラスの影響は計り知れない。

例えば、製品設計は3次元CADで行っているが、次の工程設計の際に、現場が紙や現物を重んじるあまり、わざわざ2次元CADに変換し紙で出力をしているというケースがある。設備仕様書、設備レイアウト図面などもこの工程に含まれる。特に日本では幸か不幸かエンジニアや作業者の技量が高く、2次元のデータの裏に隠れている情報を読み解き、すり合わせによって何とか生産設備や製品を作り上げることができていたため、今までそれほど大きな問題にはならなかった。

明文化しなくとも阿吽の呼吸で行間を読み解き、設計者の意図を察してものづくりができていたのだ。しかし、熟練技能者の退職や、人手不足、製品立上げのリードタイムの短縮などの要因により、課題が表面化してきている。

ではどうすれば良いだろうか? その答えが「エンジニアリングチェーンのDX」となる。3次元CADデータをはじめとして、各種データを各種工程においてシームレスにつなぎ、工程そのものを変えて生産性の向上や新しいサービスにつなげるのである。 エンジニアリングチェーンのDX実現のために重要なのは、一言でいうと「デジタルファクトリーの構築」である。デジタルファクトリーは、バーチャル上にも工場を作り、リアルの工場とデジタルツインを構築することで、目的に応じた最適な生産が自律的にできる工場のことを指す。バーチャル工場では「生産シミュレーション」と「動作シミュレーション」の2つのシミュレーションによる検証と最適化が行われる。さらに、リアルの工場からのデータをリアルタイムにバーチャル工場に反映することで、シミュレーション精度を向上すると同時に、常時最適化されたパラメータを活用しての自律制御も実現する。

ここでポイントとなるのは、デジタルデータを分析・解析するだけではなく、それをリアルな生産ラインに反映する点にある。設計・生産・調達という部門を横断した徹底的なデジタルデータ活用を通じた改革「商品化業務改革」を行うことも重要である。

■デジタルとリアルの連携が鍵

繰り返しになるが、エンジニアリングチェーンのDX実現のためには、工場をデジタル化し、リアルとの連携が必須となる。この節では、商品企画から製品設計、施策・量産に至る工程の改革「商品化業務プロセス改革」について解説させていただく。なお、ここでは、電通国際情報サービス(ISID)堤様にご協力いただいており、私のユーチューブチャンネル「AMANO SCOPE67回」で対談を公開させていただいている。良ければ参照いただきたい。

商品化業務プロセス改革の実施に際しては、「ビジネス戦略・事業戦略との整合・確認」「商品化業務改革の目標(KPI)設定」「目指す商品化業務プロセスの策定」「目指すIT・ツール全体像の策定」の4つのステップで進めることが重要であると考える。

かつては設計者と生産のエンジニアが近くにいたため、コミュニケーションによってその溝が埋まっていた部分もあるが、組織が大きくなり設計から製造までの工程が複雑になるにつれてデジタルの力でその溝を埋める必要が出てきているという側面も存在する。

商品化業務プロセス改革の最初のステップは「ビジネス戦略・事業戦略との整合・確認」となる。「ITツールの選定」から行ってしまっては目的を見失い、結果として手戻りを発生させてしまうことになりかねない。

ビジネス戦略・事業戦略しては大きく3つの方向性が考えられる。経営者が注力したい順に挙げると、一般的には(1)新たなビジネスの創出(2)現ビジネスの成長(3)現ビジネスの維持の順となる。しかしながら、多くの企業は「③現ビジネスの維持」のために、人を中心とするリソースを割かざるを得ず、(1)や(2)といった、よりチャレンジングな事業領域にシフトしたくてもできていない。ビジネスを効率化し、現事業にかけているリソースを削減し、(1)、(2)にシフトしていく必要がある。

2022925日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。