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Opinion

SUUMO編集部 編集長 池本 洋一 氏

4月から! 建物の省エネラベルで良質な市場形成へ

2024年4月から「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」(通称:省エネ性能表示制度)が始まった。制度を主管した国土交通省の特設サイトでは「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告などに表示することで、消費者などが建築物を購入する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度」とまとめられている。買い手・借り手(消費者)の建物の省エネ性能に対する関心を高めることで、省エネ性能の高い良質な住宅・建築物の供給を促す狙いがある。

 1972年滋賀県生まれ。上智大学新聞学科卒業後、95年にリクルート入社。2011年よりSUUMO編集長を務め、18年リクルート住まい研究所所長に就任。19年にSUUMOリサーチセンターを設立しセンター長を兼務。今回の国土交通省による建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度に関する検討会でも委員を務めた。

本制度で重要なポイントは次の2点。(1)建物の「エネルギー消費性能」や「断熱性能」などを定型のラベルで広告表示を行うこと(2)販売・賃貸事業者が表示をしていない場合、国土交通大臣が勧告・公表・命令などの罰則を施行できること。仲介会社は罰則対象外だが、仲介会社がそのラベルを広告掲載しなければ物件の売主や貸主が罰則対象になってしまうので、一蓮托生的な制度となっている。

2441日以降に建築確認申請(建確)をする新築建築物(分譲戸建てや分譲マンション、賃貸住宅など)が努力義務の対象で、対象物件が同時期以降に再販売・再賃貸される場合も努力義務対象となる。同日以前の建確物件のラベル表示は任意となっている。

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建確した物件が、販売・賃貸されるまでにはタイムラグがある。また、第三者評価ラベルの場合、販売・賃貸事業者が設計者に依頼後、評価機関が発行し、多くの事業者を経由して運ばれ、時間がかかる。 そのため、実際にラベルを掲載し消費者に情報を届ける役割を担うSUUMOLIFULL HOME'Sat homeなどの不動産ポータルサイト上のラベル表示事例は現時点ではまだ限定的だ。今後、建確取得から客付けまでのスパンが比較的短い新築分譲戸建てや新築賃貸アパートが先行しながら、年内には分譲、賃貸マンションも含めた主に新築でのラベル表示が標準化していくと見ている。

■省エネ性能は★数で確認

私が委員も務めた本制度の検討会で議論が尽くされたのが省エネ表示ラベルの仕様。このラベルを通じて消費者と販売・仲介事業者がコミュニケーションを取る。双方にとってひと目で建物の省エネ性能がわかるようシンプル・見やすい表示の統一仕様を、『SUUMO』を含む不動産情報サイト事業者連絡協議会も主体的に参加して、議論を深めた。

最終的に住戸向けの表示では、7つの必須要素(エネルギー消費性能、断熱性能、自己評価・第三者評価、建物名称、再エネ設備あり/なし、ZEH水準/ネット・ゼロ・エネルギーを満たすか、評価日)と2つの任意・該当時のみ表示(目安光熱費、ZEH)からなる仕様となった。

一番注目してほしいのは「エネルギー消費性能」。国が定める省エネ基準からどの程度消費エネルギーを削減できているかを星の数で示している。星0個の表示もあるが、254月から義務化になる省エネ基準に適合する建物は星1つの水準であり、254月以降は星がない建物には新築としての認可が降りない。星1つが最低水準だと考えてよい。

その上で、太陽光発電などの再エネ設備がない住宅とある住宅・非住宅に分けられており、ない住宅では星4つを上限とする5段階、ある住宅は星6つ上限の7段階となる。省エネ基準から10%削減するごとに星の数が増えていく仕組みで、星の上限は国が概ね妥当な金額を投入した中でできる最大の削減率を基準として、再エネ設備がない住宅は30%以上削減を上限基準と定めた。加えて、再エネ設備のある住宅は創り出したエネルギーを使用するエネルギーと相殺する形で削減率を高めることができるため上限基準が50%以上削減に高められており、表示方法も再エネ設備による削減量には星に太陽の光の筋をイメージした綺羅星マークで示す。

■リレーを途切れさせないことが鍵

無事、販売・賃貸事業者がラベルを発行しても、ポータルサイトに情報が掲載されるまでにラベルの受け渡しリレーが途切れてしまっては意味がない。一方で、建物の多くが罰則対象外である仲介事業者を経由して情報公開されるため、手間が増える仲介事業者にとって掲載メリットがなければ、適切にラベルの受け渡しが行われない可能性がある。

近年の電気代の高騰や世界情勢の不安定化、省エネ設備に対する各種補助金など、省エネ・節電に対する市場環境は悪くない。実際、『SUUMO』に掲載されている建物の問い合わせ件数を調べたところ、ZEHや省エネといった文言を物件情報に入れる場合と入れない場合では、入れた方が15~18倍ほど多いなど取り組むメリットは十分ある。

また、消費者は、断熱・省エネ化によって光熱費が削減できれば、支出が浮くため、その分を住宅ローンの返済に充てたり、賃貸物件の選択の幅を広げたりすることにもつながる。売買においては、子育て世帯と若者夫婦世帯は、省エネ性能の高い新築住宅の取得時に補助金が助成される国交省の「子育てエコホーム事業」を活用すれば、80~100万円が戻ってくる。加えて、中古物件の住宅ローン減税額も、一般的な中古住宅の取得で最大140万円であるのに対し、省エネ基準を達成している新築もしくは再販物件は最大364万円、ZEH水準を満たす建物であれば最大408万円の減税を受けられる。

仲介事業者は、こうした知識とラベル表示を併用すれば、消費者に向けて様々な提案ができる。物件価格が高騰し分譲戸建ての在庫が積みあがっている今、提案の仕方次第では省エネ性能の高い建物の方が売りやすくなる可能性もある。そうした意味でも、仲介事業者にも本制度やラベルを上手に活用いただきたい。

既築住宅向けの表示ラベルも検討されており、近く公表される見通しだ。消費者に適切な情報を伝達するためにも、関わるプレーヤーすべてが制度をしっかりと理解し、抜け漏れのないリレーでラベルを受け渡していけるかが鍵になる。

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2024525日号掲載)