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扉の先71/ロボットで大物ワークを切削

マリノプロジェクト、木材加工は「刃物が困る」

近年、ロボットアームの先端に刃物を取り付けて切削加工する事例が見られるようになった。マリノプロジェクト(兵庫県神戸市)はおよそ10年前からロボット切削に挑んでいる。6×2㍍のテーブルに載せた大型ワークをKUKA製120㌔グラム可搬の多軸ロボットで削り出す。テーブル横のやはり6㍍長さのレール上でロボットは自由に動き、削りやすい姿勢をとる。ワークは当初は発泡ウレタンやケミカルウッド製の治具、内装部品、レーシングカーのエアロパーツ(空力特性を向上させる部品)の原型が多かったが、最近は家具メーカーなどから木材加工の注文を受けるようになった。

「遊べたらいいわ、くらいのノリでやってるから受けるのは月に23件。ぜんぶ口コミ。サイズは50㌢から大きいもので10㍍を超える。動き出したら24時間加工し続けてるよ」

7年ぶりに同社を訪ねると、亀田真嗣社長は変わらない人懐こい笑顔でそう話す。昨春には長さ16㍍の発泡スチロール製舞台飾りも手がけた。現場でロボットに動きを11点教えるのではなく、パソコン上でオフラインティーチングができるCADCAMベースのソフト「Robotmaster」を当初から使い続ける。

ロボットを使った仕事は会社全体の売上高の12割ほど。メインの仕事は重電メーカーなどから受ける発電装置関連の治具・部品の加工で、インデックスを後づけして5軸仕様にした加工機など計4台のマシニングセンタでこなす。

▪️金属切削も視野に

「その仕事、おもしろい?

亀田社長が加工仕事を受ける際、依頼主に決まってそう尋ねる。儲かるかどうかは二の次だ。そうして始めた木材加工は意外に難しかった。

「木は刃物が困るねえ。ほぞ穴をあけるものはあるが木材を形状加工するための刃物は少ない。それでルーター用のを使っているが長いのがなく、深い加工は困る」

金属用の刃物では木屑が絡みつき、すぐに切れ味が鈍る。切削油もかけられない。そのためルーター用の刃物に長いフォルダをつけるなどして工夫しているが、材質によって堅さはまちまちで乾燥しきれていないと加工中に水分が出る。「スギ、ヒノキは柔らかくめくれる(ちぎれる)し、節があれば飛ぶ」と金属加工と違った難しさを挙げるが、「木はおもしろいね。問題が起こるたびに『どうしよう、どうしよう』というのがいい」と根っからのポジティブ思考だ。

同社はJRを退社した亀田社長が2000年に起業した。「工場があれば一生遊べると思って作ったら、会社を辞めて入り浸る奴がいて、面倒みなあかんなと会社を始めた」。小さな山の中腹にある同社の木造社屋は4カ月かけて社長自らが建てたほどで、手先の器用さと構えずに事に当たる軽さがロボット切削に取り組む原動力になった。

ロボット切削にかけた投資額は、当初考えていた門形加工機の3分の1ほど。もっとも1㍍およそ100万円とされるロボットを載せるレールは、ギアとモーターを買って自作し50万円ほどに収めるなど節約ポイントは随所に見られる。

いま考えるのは500㌔グラム可搬のロボットの導入だ。「金属材の荒加工も±1㍉の精度ならこなせる」。走行レールの材料を同業者からせっせと集めている。

2023225日号掲載)