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扉の先83/純国産を貫く搬送ロボベンチャー

匠、協業で見えた谷の先の成長

AGVやAMRに参入する企業が増え「さながら戦国時代」との声も聞かれだした。だが目を凝らせば多くは中国をはじめ海外勢で、国内メーカー、それも量産に漕ぎつけた企業に限れば意外なほど数は絞られる。創業以来、純国産を貫く福岡発のロボットベンチャーである匠は、この点で他社との違いを打ち出す。三國直行取締役IR戦略室室長は「少なくともシステムなど一部は海外製か外注であるケースが多いなか、匠は純国産。しかも制御を含め自社と提携先グループ内ですべてが完結しています」と独自性を語る。

リフト型AGV「TiTra」。多い現場では約30台が稼働する

2015年に福岡で創業。搬送ロボットのOEM生産から事業をはじめ、蓄えた知見で自社製AGVAMRの開発にシフトした(現在はAGVに注力)。ちなみに先述の「提携先グループ内」という言葉は、同社が22年にIoT事業を手がけるFIGと資本業務提携を結んだことを意味する。ベンチャーの多くは技術があってもPoC(開発前検証)や量産体制の整備で壁に直面し、少なからぬ企業がこうしたいわゆる死の谷に呑まれる。匠も受注生産から量産への移行に課題を感じていたが、多くの企業を傘下に持つFIGとの提携で道が拓けた。FIGグループのREALIZEが匠の製造を担うことで量産を叶え、実績を拡大しているのだ。

「提携による相乗効果は計り知れない」と三國氏は話す。搬送ロボの肝は運行制御などソフト面だが、FIGグループで物流システムを手がけるプライムキャストとの協業で制御も内製化。サービス含めワンストップ体制を築いた。海外勢の多い市場で、この柔軟でスピーディな体制が安心感を醸成する。「自動車メーカーはじめ大手顧客が多い」というが、なるほどと頷ける。

■競争はプラス

現在展開するのは500㌔可搬のAGVTiTra G500」と1㌧可搬の「TiTra G1000」。顧客はFA8割、物流2割だが、物流の2024年問題などの変化を背景に「物流や倉庫分野の引き合いが増えてきている」(三國氏)とする。現在コンベヤや自動倉庫との連携ノウハウを構築中だ。

AGVは競争も激化していますね。そう水を向けると三國氏は「いや、市場全体の動きが活発になったと逆にプラスに捉えています」と語った。「様々な製品が生まれたことで、中小企業にも自動化の波が来ています。中小企業はロボット導入経験がない場合も多く、海外メーカーのパッケージ提案をひょいと渡されても途方に暮れてしまう。その点、我々は要件定義から一緒に行い、カスタマイズも含め現場に合わせ『このやり方はどうですか』と提案する提案型企業です。同業が増えたように見えますが、『困りごとを共に解決する国産メーカー』は非常に少ない。中小にも自動化の門戸が開かれた以上、よりチャンスが広がります」

自動化で陥りがちな、設備業者が入り乱れ納入時にトラブルが起きても責任の所在がわからない事態。「これはお客様からすればじれったい限りです」と三國氏は言う。 「我々は導入からサービスまでSIer任せにせず素早くワンストップ対応が可能で、これを最大の強みとして提案しています。将来的にはシステムの使いやすさ、スペックも他社の一歩先を目指しています」

ちなみにAGVの価格は「ハードこそやや海外勢より分が悪いものの、システムを含めればあまり変わらない」とのこと。これも協業による量産効果が大きいそうだ。ベンチャー企業の最も苦しい部分を突破し、その先の成長を目指す。

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三國直行 取締役IR戦略室室長

2024610日号掲載)