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けんかっ早いけど人が好き Vol.36

優雅な読書

カフェで本を読む人に憧れている。コーヒーを片手に本を開いている人を見ると、なんて優雅なのだろうと、うっとりしてしまう。

友人のカフェ。チョコレートは個人的なサービスです。

私はなぜか、こういうことは年齢を重ねたら自然にできるようになると信じていた。それは高校時代に「高校三年生になったら勝手に頭がよくなっている」と思い込み、まったく勉強しないままに大学受験に大敗したときから変わっていない。天使がミラクル魔法をかけてくれるわけじゃあるまいし、勉強をしなければ学力は身につかないと痛感した出来事だ。そんな経験があるというのにすっかり忘れ、未だにカフェで本を読める人になれないでいる。

以前もここに書いたが、私はそもそもカフェに行くことが少ない。ゆえにそこで読書をするという行為そのものが、夢のまた夢なのである。それでもなんとかカフェに行ったとしよう。問題はその後だ。コーヒー一杯で、どのくらいねばっていいだのろうか。客単価、回転率、原価率といったワードが頭のなかでうずまき、店員の視線が気になって読書どころではないだろう。

では、客単価が高いところならいいのではないか。某コーヒーチェーン店が提供している、ドリンクの上に生クリームがこんもりと乗ってカラフルなソースがかかった長い名前の高価な飲み物なら視線は気にならなくなるのだろうか。ある日、文庫本を手に某コーヒーチェーン店に向かった。しかし、いい年齢こいてカフェ初心者にこの店はあまりにもハードルが高すぎた。わけわからないオプションが呪文のように並び、なにをどうしていいのかさっぱりわからないのである。結局、「本日のコーヒーをください」と言い、あっという間に飲み干して早々に退散してきた。これではだめだ。読書どころではない。

そんなある日、コーヒー好きの友人がカフェを開いた。友人の店なら! 台風なみの雨が降る日、私は文庫本を手に店を訪れた。暴風雨ゆえにほかに客はおらず、私は一杯のコーヒーで2時間ねばった。文庫本も読めた。友人、ありがとう。積年の思いがかなった瞬間である。でも、一度やればもういいかな。オシリがむずむずしちゃって落ち着かないんだもの。やっぱり人は一足飛びには成長しない。優雅な所作はむずかしいのであった。

(2022年11月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員