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けんかっ早いけど人が好き Vol.54

ステルス値上げ

ガソリン価格が上がっている。石油元売り各社への政府の補助金が段階的に減らされ、じわじわと上がってきているのだ。痛い。クルマ好きの財布が悲鳴を上げている。いや、それよりも悲鳴を上げたいのは、日々生きるために必要な食品の値上がりである。スーパーに行くたびにすごい勢いで変わる数字に、二度見しすぎて首が筋肉痛になりそうだ。

フィルムをはがすだけで破れそうに薄いチーズ。

私がよく行くスーパーは、値上げが近づくと「いついつから値上げします」という張り紙が出されるのだが、残念なことに私の視界にはほとんど入らない。なんたって買い物は闘いだ。もしくは、スポーツだ。スーパーに一歩入った瞬間から効率よく動線を選び、手際よくカゴに入れ、早打ち名人のいるレジを見定めて並ぶ↑ここ大事。一円玉をあらかじめ握りしめて現金精算機(現金のほうがお得になる)で精算を終えると、冷凍・冷蔵・常温に振り分けてマイバッグに入れ、出口にダッシュ。この間、何分で終えられるかが勝負なのである。そんな状況ゆえに値上げ情報など目に入らないのだ。

そんなある日、前回までは6個入りだったレーズン入りロールパンの袋を開けたら5個入りになっていて泣きそうになった。いつの間に! 間違いなく値上げ情報は出ていたはずだ。ぐぬぬ、安いうちにもっと食べておくんだった。このようにあからさまにわかるステルス値上げがある一方、姑息な、まさにステルスと呼べる値上げもある。スライスチーズだ。

トーストにはジャムとスライスチーズを2枚。これは長年続く私の定番朝ごはんである。このルーチンを始めた20年以上前、スライスチーズは一枚20㌘だった。それがある日突然19㌘になり、今は17㌘が標準タイプである。先日、一袋20枚入りのすごく安いスライスチーズパックを見つけ、すかさず飛びついたのだが、家で開けてみて愕然とした。一枚がぺらっぺらに薄いのである。表示を見ると15㌘。それはもう紙のような薄さで、よくぞここまでと尊敬の念を抱くほどである。

チーズメーカーのステルス値上げ。いったいどこまで薄くなるのだろうか。さらに薄く仕上げてきたらその薄さに嘆くのではなく、製造部門担当者の執念と技術力に拍手を送りたいと思う。

(2023年8月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)