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けんかっ早いけど人が好き Vol.60

カワサキの裏切り

四年ぶりの東京モーターショーである。おっと、コロナで一回パスしているあいだに、ジャパンモビリティショーへと名前が変わったのだった。主催する日本自動車工業会、大英断である。

モビリティショーゆえ展示の幅も広がった。飛行機やドローンがそこかしこに展示され道と空がつながってきた感が強い一方、田植えの草取り機や回転寿司のレーンみたいなものまでが展示されていて、動けばいいってもんじゃないだろうと突っ込みたくなる。しかし、こうなるとホンダは強い。二輪からホンダジェットまであるので一社でコンプリートだ。負けじとトヨタは月面を走る車両を展示していた。ついに宇宙進出である。

東京モビリティショーに展示された、カワサキのNinja EV。

そんななか今年の私の衝撃の一台はカワサキのニンジャだ。ニンジャといえば、ホンダのCB、スズキの刀と並び、一世を風靡したビッグバイクである。昨年、カワサキはそのニンジャの電気バイク(以下EV)を発表した。いくら世界がEV大合唱とはいえ、カワサキよ、お前もか!と、Zoomで行われた発表会を家で見ながら声が出たものだ。フランスでは、大気汚染対策のためパリなどの中心部に電気自動車しか入れない日が作られている。ゆえに世界的に見るとバイクもEVが求められ始めたんだとか(ハイブリッドもEVモードがあれば入れる)。そして今回、カワサキブースの一番目立つところにそのニンジャのEVとハイブリッドがスポットライトを浴び、くるくるとまわっていた。おお、これか。ガシャコンとシフトを足で蹴り入れながら排気音を轟かせ走る自分に酔いしれたのは遠い昔。そうか、もうエンジン音も排気音もなく走るバイクの時代か。ん、排気音?

目の前でくるくる回るニンジャはなにかおかしいと思っていたが、その正体がわかった。そう、排気管がないのだ。いやいや、ちょっと待て。そりゃEVなのでいらないでしょうよ。でも、四気筒のそれぞれのシリンダーから出された排気管が美しく交差しまとめられた造形美こそビッグバイクの魅力ではなかったか。

時代は変わる。モーターショーからモビリティショーへ。そしてニンジャは排気管なしへ。これはショックだ。今年一番のダメージだ。だめだ。しばらく立ち直れそうにない。

20231110日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)