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けんかっ早いけど人が好き Vol.70

不便だから楽しい?

あれだけ大騒ぎしたコロナウイルスだというのにすっかりみんなの記憶から消え去り、多くの観光客が来日している。もちろん、日本からも各国へ飛びまくりだ。私の友人も、二年遅れではあるものの無事に新婚旅行へ行ってきた。行先はフィンランド。サンタクロースとムーミンの国である。食事はサーモン、サーモン、トナカイという噂は本当らしく、どこへ行ってもこの食材が繰り返し提供されたという。

フィンランド土産のアイ・クリーム。英語の一言がなければさっぱりわからない。

彼らがフィンランドを選んだのは、旦那氏が建築好きだからだそうだ。たしかに北欧デザインは素敵だ。私もヘルシンキ中央図書館には生きているうちに一度は訪れたいと思っている。建物がとんでもなくユニークで、ため息ものなのだ。しかも、提供する図書サービスやユニセックスのトイレを作るといったソフト面のすばらしさもあり、2018年に開館した翌年に国際図書館連盟から世界一の図書館として表彰されている。

カフェで彼女が映した写真を見ながらひとしきり盛り上がったあと、小さなチューブがテーブルに置かれた。

「お土産です、どうぞ!

表面にはフィンランド語の文字。はて、これは?

「アイ・クリームなんです」

そういいながら彼女は、スマホを取り出してアプリを立ち上げると、チューブの表面にスマホをかざした。するとそこには、フィンランド語が日本語に変換されて映し出されているではないか。そう、文明の利器、グーグルさまの翻訳アプリである。彼女によると、わけのわからないフィンランド語もこれひとつで、レストランのメニューもホテルの注意書きもすべてこなせたという。ほんとにもう、技術ってすごい。

思えば、25年近く前に私がイタリアに住みにいったとき、日用品を買おうと雑貨店に入ったら、リンスが見つけられなかった。いったん家にもどり辞書をひくと、なんとリンスはイタリアではバルザモと呼ばれているではないか。シャンプーはシャンプーなのに、バルザモなんてわかるかい! あのとき、このアプリがあればもっと楽に住めたのに。だけど、よくわからなくて右往左往したことは後に笑い話になったりする。コインを何枚も握りしめて公衆電話から日本に電話した日々が、ちょっと懐かしく愛おしい。

(2024年4月10日号原稿)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)