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長谷川工業 長谷川 義高 副社長

価格競争に巻き込まれない魅力ある製品づくりへのシフト

「10分に1台売れる」脚立、「脚軽」シリーズを筆頭に、国内はしご・脚立市場をリードし続ける長谷川工業。業界内で大きなプレゼンスを発揮している同社の大きな強みのひとつは、意匠性を強く意識した製品開発だ。かねてより同社においてプロダクトデザインの陣頭指揮を執る長谷川義高副社長に、製品開発のこだわりや新たに展開している「BLACKLABEL」について話を伺った。

創業以来、はしごと脚立のパイオニアメーカーとして、数多の現場の足元を支え続けてきた長谷川工業。軽量かつ耐久性に富み、抜群の使い勝手――。ユーザーがはしごに求める機能を高次元で満たした「Hasegawa」ブランドは、高度経済成長の波に乗り、市場を席巻してきた。

しかし、かつて日本のお家芸だった家電がそうであったように、機能性にフォーカスした製品の多くはコモディティ化の波に飲み込まれてしまう。それは長谷川工業の製品群も例外ではなかった。同社の長谷川義高副社長が当時を振り返る。

「当社も熾烈な価格競争に晒され、『社員全員が頑張っているけど、なかなか利益に反映されない』という状況がしばらく続いていました。こうした状況を打破したいと考え、2007年頃から自社プロダクトのデザイン面を強化し、商品価値の向上を目指しました」

かくして2009年にリリースした踏み台「Lucano(ルカーノ)」は機能性と意匠性が高く評価され、世界各国のプロダクトデザイン賞を受賞。2017年には、ルイ・ヴィトンが直営店全店舗に採用、2018年には人気アパレルブランド・シュプリームとのコラボレーションを果たすなど、BtoC向け大ヒット商品としていまだに売れ続けている。

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機能性と意匠性を両立した踏み台「ルカーノ」

一方、既存の自社リソースを有効活用したのが、ブラック色の脚立「CROCO(クロコ)」だ。

「撮影でスタジオを訪れた時に、ラッカー塗装で黒に塗られた脚立を見かけたのがきっかけです。スタジオ内において、剝き出しのアルミ地では光が反射してしまうという理由で塗装したそうですが、それに着想を得て開発したのがクロコです」

ブラックアルマイト塗装が施されたクロコは、シルバー一辺倒だったはしご市場に大きなインパクトを与え、大きくセールスを伸ばした。

「ルカーノのようにディティールから開発するのは時間がかかりますが、色を変えるだけなら自社ですぐに対応でき、しかも従来品の良さを活かしたまま市場投入できるメリットもあります」

■SNSで自社ファン層を拡大

スマッシュヒットとなったクロコをさらに進化させ、脚立だけではなく足場台までラインアップを拡充したのが20219月から展開する「BLACKLABEL(ブラックレーベル)」シリーズだ。

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発売以来好評を博している「BLACKLABEL」シリーズ

精悍なブラックの本体に加え、手で操作する部分には長谷川工業のコーポレートカラーでもある赤をあしらった。

「伸縮タイプの従来品では、伸縮パーツがシルバーでしたが、これを黒に一新するなど細部まで『何色にも染まらない黒』をコンセプトに市場投入しました。一昨年9月の販売以来、従来品の約3倍のペースで売り上げを伸ばしています」

ブラックレーベルの市場投入に合わせ、インスタグラム等のSNSキャンペーンも積極的に展開。多くのファッションに敏感なユーザー層の支持を獲得している。

「ターゲティングしたユーザーは30代の職人さんたちです。自分の仕事に誇りを持ち、道具にこだわりを持っているような方に刺さればと考えていました。ブラックレーベルは見た目の格好良さだけではなく機能性も含めて、ユーザーの『魂』に呼応するようなプロダクトをイメージしています。脚立は仕事道具ですから、使われることに意義があり、いつしか黒の塗装にキズが入ることもあるでしょう。しかしヴィンテージのジーンズがそうであるように、使い込まれたキズはそれなりの格好良さが出ます。ブラックレーベルもそれぞれのユーザー様に『使い込むほど味が出る』アイテムに育てて頂きたいですね」

自社プロダクトにデザイン要素を加え、他社製品と明確な差別化に成功した同社。デザインに注力する前には70億円だった年商も現在は100億円を突破した。

「今後、デザインにも力を入れていきますが、それ以上に利便性や機能性を追求したモノづくりに注力していきたいですね。お客様の安全や作業環境の向上に、意匠性というスパイスを効かせていければと考えています」

2023225日号掲載)