日本物流新聞生産財と消費財の業界専門紙として半世紀を超す実績。
日本物流新聞社のWEBサイトでは、
ものづくりを支える工作機械、工具、ロボット、産業機器等の情報から、
ハウジングはじめ住まい・暮らしの様々なニュースをお届けしています。

検索

Voice

神崎高級工機製作所 取締役 工作機械事業部長 川本 洸司 氏

深化する高精度ニーズを追求できる歯車仕上げ機

マザーマシンである工作機械に始まり、歯車、油圧機器とコアとなる技術開発を進め、顧客と一体で行う製品づくりのスタイルからたくさんの支持を受けてきた神崎高級工機製作所。

1947年の創業時より改良を重ねたギヤシェービングマシンは国内外で大きなシェアを持つ。また自社製工作機械を使った歯車生産は年間4000種類、700万個。現場の声を聞くことのできる機械づくりは他では見られない恵まれた環境下にある。

また最近の開発機では高精度な歯車が必要とされるEV化関連の内容が多い。そこで「静かに力を伝える」を目標に開発された歯車ホーニング盤と歯車研削盤の現状、次世代の歯車の可能性を取締役の川本洸司工作機械事業部長に話を聞いた。

――足元の景況感はいかがですか。

2020年からのコロナ禍では他と違わず厳しい状況でしたが、昨年あたりから徐々に回復してきました。材料の価格上昇のインパクトは大きいものの、右肩上がりが続いています。ただし市場全体を見てみると国内では設備投資に慎重な姿勢が見られます。そんな中、今年は自動車用ホイール加工機の大口受注を頂いており、回復の兆しが感じられます。今後設備投資の動向を見ながら、EV化需要が見込める国外への販売体制を強化していくつもりです」

――貴社の歯車加工機は国外でもシェアを多くお持ちです。重点を置く地域は。

「中国が景気減速している中、ここに来て急激に成長しているインド市場の広がりに期待をしています。インドは中国の様に即断即決といったスピード感はありませんが、当社製品を使って頂き、その良さを知って頂くことで厚い信頼を勝ち取ることが何より重要と考えています。根気のいる市場ですが、何よりの近道と考えています」

――EV化により歯車の静粛性が求められています。設備需要にどのような変化が。

「エンジン音がなくなることで、減速機やトランスミッションのギヤノイズへの静音化ニーズはますます高まっています。我々は1947年から、ギヤシェービングマシンでシェアを獲得しながら『自動車を静かにする』というテーマを実現する加工機を生み出してきました。以前は熱処理前にシェービングマシンで歯面を仕上げる工法が主流でした。しかし熱処理による形状歪みのコントロールは困難です。より高精度を求められる現在では熱処理後に歯車ホーニング盤や歯車研削盤で仕上げる工法に移行しています。我々もその流れを汲み、開発に力を注ぎ、実力をつけてきました」

――EV化で加工機にはどのような要素が求められますか。

EVの課題は走行距離の延伸です。自動車の軽量化やバッテリーを大きくするために減速機はコンパクトにしたい。そのため以前は平行に配列されていた歯車を極力同じ軸上に配置しコンパクト化、軽量化を図る設計へと変化してきました。一方歯車仕上げ加工で一般的な歯車研削盤では隣り合う歯車と工具が干渉してしまう課題が生まれました。そこで干渉なく噛合いながら歯面を削るギヤホーニング盤『FF260』をお客様に提案させて頂いています」

――段付き歯車の加工ニーズに合致すると。

「我々の歯車ホーニング盤は既に多くのお客さまに使っていただいています。しかし現在主流である歯車研削盤と比較すると切削力、サイクルタイムの面で劣っています。その差を埋めるために戦略製品として改良を行い、最高回転数毎分3000回転を実現、切削力を大幅に向上しました。EV化により更なる需要を見込んでいます」

FF260_Y1A6428.jpg

【左】EV化によって増える段付き歯車を干渉レスで加工する歯車ホーニング盤「FF260」、【右】歯車研削盤「GB260」は繰り返し精度が求められるロボットの歯車加工に向く

■ロボットの高精度歯車にも注力

――多関節ロボットにも高精度な歯車が必要です。

「もう一つの市場として狙っているのはロボット分野の歯車加工です。人材不足が進むなかでロボット需要が急激に上がっています。ロボット関節の歯車で求められるのはピッチ精度。バックラッシがあるとロボット動作で重要な繰り返し精度が保てず、かと言ってバックラッシがゼロだと歯車が回りません。ゼロに極力近づけることがロボットの歯車において重要な要求です。これらの精度確保には歯車研削盤が最適であり当社の『GBシリーズ』で対応ができます。我々は様々な歯車仕上げのニーズに対応することを強みとしています」

――あらゆる歯車に機械側から追求していくと。

「当社は歯車製造を専業とした事業部もあり、そこで自社加工機を使い歯車加工を行っています。その上で歯車の開発、工作機械の設計にも事業展開しています。歯車の全てが揃っている会社として、社内事業間でノウハウを活用しながら他社にはない神崎独自の提案を行いたい。また伝達効率の良いドライブトレイン開発に貢献し、環境にも優しいモノづくりを目指します」


脱炭素に「モノづくり」で応える

「脱炭素社会に向けて」が命題という神崎高級工機製作所。その中でEV化やロボットによる省人化に意欲的に取り組んでいる。さらに「壊れにくい」、そして「誰もが安全に、簡単に使える」ユーザーフレンドリーな機械づくりを目指す。海外強化にあたり、サポート体制の構築も課題として挙げる。加工が難しくマニアックな分野でもある歯車加工の技術者は母数が少ないが、機械で出来る技術的なサポートと現地企業とのタイアップによる技術者へのサポートを持続的に進め結実させていく構えだ。

(2023年9月10日号掲載)