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澁谷工業 執行役員メカトロ事業部 サイラス本部長 勝田 宏也 氏

厚み増す技術と実績背景に「原点回帰」へ

ボトリングシステムをベースに飲料分野から食品、半導体、再生医療と事業領域を広げてきた澁谷工業(本社・金沢市)。展開力の源泉は各分野とも独自技術にあった。レーザ加工機を製造するメカトロ事業部サイラス本部もしかり。技術の力で微細分野に切り込み、ライバル社と異なる道を歩んできた。この8月、本部長に就任した勝田宏也氏に話を聞いた。

――他社にない技術展開が目を引いてきました。レーザ加工では10年ほど前から微細分野に注力された。

「はい。元々は板金加工向けの炭酸ガスレーザ加工機が主力でしたが、リーマンショック(2008年)後、売上が大きく減った時に、何かせねばと苦しみ抜いて微細分野向けレーザ加工機の開発に舵を切ることになりました」

――貴社レーザ機のイメージは大きく変わりました。

「超精密な炭酸ガスレーザ加工機を開発し、例えば半導体の製造工程で使われる石英ガラスの微細切断用、エンジンガスケットやシムの加工用、またワイヤーカットからの工法転換なども提案していました。おかげさまで思い切った軌道修正は実績を呼び、顧客満足も十分なものだったと自負しています。その後、2015年頃からファイバーレーザが炭酸ガス式に代わって主役の座につくわけですが、当社の方向性は基本変わらなかったですね」

――つまりファイバーでも超精密・微細路線を目指した。

「ファイバーを巡るメーカーの技術競争は高出力化やスピード面で激化しましたが、当社は少し違っていました。オリジナルの発振器で超精密加工を追求するとともに、汎用のファイバーレーザといいますか、要はお客様が買いやすい機種の開発といったことに目を向けました。ファイバータイプは高価で買いづらいとの声が当初から多かった。他方でレーザ溶接(ファイバーほかYAG)にも注力しました」

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注目機種の一つがコンパクトなファイバーレーザ加工機(FALCON-S SPF4125型)写真はカバーを外した状態(自動・手動開閉可能)。超微細加工から厚板切断までこなす。

■原点回帰へ、板金業界への提案を再度本格化

――今年8月に本部長に就任されましたが、今後、貴社サイラス本部の舵取りはまたかわるのでしょうか。

「まだなったばかりですからね(笑)。前々期から『原点回帰』をキーワードにしていて、これは板金業界向けを再び強化するとの意思の表れです。これに沿って成長を目指さねばと思っています」

――微細、高精度、高速、溶接、いろんな技術を引っ提げて再び板金加工市場を開拓すると。

「一説では、工作加工用レーザ加工機はもう9割がファイバー機だそうです。対して当社は炭酸ガスとファイバーの機種がほぼ半々。そのぶん引き出しが多いし、超精密加工から高速加工、薄板から厚板まで対応できます。切断と溶接の双方を提案できるのも強みです。溶接に関しては社内(他事業部)でも、熱影響でひずみの出やすいステンレス板のTIG溶接をファイバー溶接に代えて品位が大幅にあがった。板厚を半分にしても溶接できると好評です。じゃあもっと導入してくれと言っていますよ(笑)」

――板金業界向けレーザ加工機で、お話の内容に沿う新機種をひとつあげるとすれば?

「コンパクトなファイバーレーザ加工機(FALCON︱Sシリーズ)が上げられます。昨年発売の新機種“SPF4112型”は4尺角が加工できるコンパクトな汎用機として高い評価を頂いていますが、やはり板金仕事には″4×″8板(いわゆるシハチ)を加工したいという声が強く、今年7月のMF東京でFALCON-S 48(SPF4125型)を発表しました。″4×″8材が加工でき設置面積が小さく、カバーの開閉により左右・手前・上からと自由にワークを搭載できます。SUS0・1㍉厚の微細加工から、12㍉厚の軟鋼まで対応できますが、これは競合メーカーにはない特長ですよ(以上写真参照)。価格を抑えており、板金業者さんが保有する炭酸ガスレーザ機の更新需要も狙っています」

――楽しみですね。事業の成長目標は?

「当(シブヤ)グループは、2030年度までに連結売上高2000億円を目標として掲げています。我々サイラス本部としても中期計画を立案し明確な目標を決めています。レーザ加工機の可能性は大きく、独自の技術提案で実績を伸ばします」

――最後に話は変わりますが、AIへの関心が急速に高まっています。これをどうみますか。利活用は始まっていますか?

「個人的に興味があります。事業の在り方も変わるだろうと識者の方が言っていました。これまで特に日本企業は年間成長率を掲げ、その目標に向かって地道に努力した。けれど今は、例えば10年後の成長イメージを持ったうえで、10年の歳月を3カ月にしようといった考えをする企業が一部で出てきている。それにはAIが必要だし、AIがあるから、そうした考えも可能になるということです。当社の現実を言えば、特定技術分野のニッチトップを目指していますから、そのニッチ領域のデータを蓄積し、解析結果をお客様と共有していく方向ですね」


真の原点は?

勝田新本部長は「事業の原点回帰」を強調したが、同社レーザ加工事業の「そもそもの技術の原点」はレーザマーカーだったそう。ボトリング事業における瓶類や、半導体関連部品に決して消えないレーザマーカーが有効と40年近く前に判断して始まった。以来、変容しながら連綿と続くレーザ技術の系譜が興味深い。この先も3幕、4幕と続くのだろう。

(2023年9月10日号掲載)