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ABB ロボティクス&ディスクリート・オートメーション事業本部 インダストリー事業部長 菅井 康介 氏

制御技術と事前検証でサイクルタイムをとことん短縮

100カ国に10万人以上の社員を擁するグローバルテクノロジーリーダーの日本法人。ロボティクス&ディスクリート・オートメーションビジネスは世界4大ロボットメーカーの一角を占める。加減速制御や軌跡精度の高さ、シミュレーション技術によるサイクルタイムの最短化などに強みをもつ。昨年1月に事業部長に就き、自動車分野以外の産業を見る菅井康介氏に昨今の状況を聞いた(一般産業事業部は今年7月にインダストリー事業部に名称変更)。

――最近のAIブームをどう見ていらっしゃいますか。

ABBのグローバル全体としてはお客様に最新技術を届けるために各産業分野のトップランナーの企業と協業し、ユーザーの利便性を追求しています。そこにAIが加わったことで、ロボットを使うハードルを下げることになります。プログラム作成が簡略化でき、操作面でもサポートができます」

――主にユーザーインターフェースの部分でしょうか。

「インターフェースの部分というよりは、従来であれば1からプログラム言語を書き込む必要がありましたが、こんな作業をしたい、と指示すれば、最適な動作軌跡の候補を生成できるといったことが期待できます。現在の自動軌跡生成技術の延長ですね。メンテナンスにおける予防・予知の精度の向上も期待できます」

――逆にネガティブな面はありますか。

「あまりネガティブに考えていませんが、AIにすべてを任せることはできず、どこまでをAI任せにしてどこを人が見るべきかの判断の難しさは出てきます。その延長でエンジニアが学ぶべき内容も変わってきます。どんな仕組みが働いているのかをきちんと理解しないと、開発や非常時の対応が難しくなります。当然、ロボット分野にかかわる人材の種類も変わるでしょう。当社は幸い、シミュレーションソフトとデジタルツインを組み合わせた『RobotStudio』に20年以上にわたり取り組んできたこともありデジタル技術の活用は進んでいます」

■システムとして提案

――貴社ではAIをどう活用されていますか。

「グローバルで販売する製品のいくつかにAIを使っているものがあります。1つはAMR(自律走行型搬送ロボット)。自律走行させるためのナビゲーションにAIを活用しています。もう1つは「ロボティックアイテムピッカー」という物流センターなど向けのピッキングシステム。これまでにもピッキング・システムはありましたが、対象アイテムの形状データを読み込ませる必要があり、この形状のアイテムのここを掴みなさいと登録する必要がありました。ところが当社システムではカメラ側で視認し、AIを使って自動的にその判断をします。運ぶ途中でリーダーで6方向からバーコードを読み取る仕組みなどで、全体の処理能力の高さ、高速性も特長です」

――ロボットメーカーがこんなシステム提案をすることは珍しいのでは。

「システムベンチャーや3Dビジョンメーカーなどがセット提案しますが、当社のように自社でまるごと用意することは珍しいと思います。元々ピッキングが得意という背景もありますし、先ほど申し上げた『RobotStudio』を活用し処理能力・精度を含めて統合性を高めれることもそれにつながっています。国内にアプリケーションセンターを2カ所設け、お客様から製品を預かって様々なテストをしています。特にピッキングに関しては相模原のセンターでこれまでに600件以上のテストを実施しました。製品に応じた吸盤、厚み、サイズといったノウハウを培っており、こうした最新技術と融合できることも当社の強みです」

――いま最もアピールしたい製品は。

1つは2021年に発売した5㌔グラム可搬の6軸制御・協働ロボット『GoFa』に今年6月、10㌔と12㌔グラム可搬タイプを加えました。協働ロボットでありながら動きが速いのが特長です。工程を細かく分け、速く動かす部分とゆっくり動かす部分を指定し、安全性を維持したままサイクルタイムを短縮します。TCP速度は毎秒22㍍と20㍍。カタログスペックでそれを上回る製品もありますが、加減速の速さを加味した実運用のサイクルタイムでは遅くなることが多いです。もう1つは当社でラインナップの多いパラレルリンクロボット、IRB 390 FlexPackerです。4軸仕様の15㌔グラム可搬と5軸仕様の15㌔、10㌔グラム可搬の3機種を今年国内での販売を始めました。扱える質量が増したことで複数台並べるところを1台で対応でき、5軸仕様は先端に1軸加えたことで例えば横になったボトルを立てるような作業にも対応します。これにカメラとロボット制御のパソコンベースの新ソフト『ピックマスターツイン』を使えばターンテーブルトラッキングも可能で、お客様の省スペース化や生産性向上に貢献できます」

21面リレーインタビュー(2)ABB菅井事業部長P2.jpg

3機種そろった協働ロボット「GoFa」(51012kg可搬)と先端に1軸加えた5軸制御のパラレルリンクロボット「IRB 390 FlexPacker

ABBのロボットは違う


カタログ上の最高速と、実際の現場でのサイクルタイムは必ずしも符合しない。ここにこだわり、現場のサイクルタイムを短縮するのがABBだ。「日本のメーカーさんに相談するも、できないと断られて当社に相談に来られるお客様もいらっしゃいます。困ったときはABBに相談してみようと思ってもらえる存在になりたいですね」と菅井事業部長。そのためにパートナーである商社やSIerと周知活動を強化している。

(2023年9月30日号掲載)