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日研工作所 代表取締役社長 長濱 明治 氏

自動化のラストピースを埋めるのが使命

日研工作所はユーザーの自動化や効率化を全力で支援する。"道具屋"を自認しユーザーニーズを重視する同社にとって、あらゆる業種の現場が直面する人手不足は、目下最優先で取り組むべき課題だからだ。工作機械を加工の主役とするならば、まさに名脇役。「小さな見直しが大きな力になる」を合言葉に、周辺機器の視点で自動化を誰もが手の届く果実に変える。

長濱明治社長。左下が「黒のホルダ」で、右下がRED搭載の円テーブル。手にするのが「マルチ治具ホルダ」だ

――設備投資に翳りがあります。主力の円テーブルとツーリングの動向は。

「ツーリングと円テーブルは、工作機械と切削工具、または被削材に挟まれ双方の影響を受ける商品。従来、その導入は、加工精度の向上や工程集約といったユーザーの改善のために後付けで購入される場合と設備投資の一環で工作機械と同時に導入される場合がありました。しかし近年は機械加工がNC化しているため、機械と同時に周辺機器導入が進む設備投資的な色合いが強まっています。先行き不透明な情勢の中で、設備投資は一旦先延ばしにされています。日工会の工作機械受注と同様、我々も昨年と今年の景色は大違いですね」

――その中でどの市場に活路を見出しますか。

「我々はあくまで道具屋ですから、まず考えるべきはユーザーニーズです。これまで設備投資のけん引役だった自動車産業や半導体関連は調子が上がりませんが、現場を見渡せば、中堅中小企業の多くが『2040年問題』に象徴される深刻な生産現場の人手不足に直面しています。これに対し、今こそ比較的導入しやすい周辺機器こそが知恵を絞らねばなりません。大手ユーザーの量産ラインならともかく、変種変量・多品種少量生産への対応を求められる受託加工業ではロボット導入だけでは課題解決が難しい。また投資額にも限りがあります。そこで工程集約や自動化を支える商品を、企業規模を問わず導入できる形で提供したい。つまり生産現場での自動化や工程集約を実現するためのラストワンマイルを埋めるのが、被削材の至近を担う我々の使命と考えます」

――具体的な商品で言うと。

「MECTでは3つの商品を柱に出展します。まずは『黒のホルダ』。強い防錆効果を持ち、通常のメッキを使う防錆ホルダと比べてもその強さは魅力です。金属の表面を化学反応で変質させているため、寸法や精度に大きな影響を与えず、剥がれる心配もありません」

――黒錆で赤錆を防ぐというユニークな発想です。

「仰る通りで、あえて黒錆の被膜層を作り、素地(鉄)と酸素の結合を断ち切ることで赤錆を防ぎます。昨今は工程集約や合理化のため、大型ATCマガジンを持つMCを導入して、ホルダをマガジンに挿しっぱなしにする現場が増えました。ただこれが落とし穴で、レシピの違う金属が接すると電位差が生まれ、イオン化した結果、酸素と結合しホルダが錆びてしまう。錆は当然精度に影響し、主軸に錆が移れば大損害です。調べる限り、相当の現場が錆に悩んでいます。黒のホルダこそ、自動化と工程集約を支える第一歩だと言えます」

――2本目の柱は。

 「『マルチ治具ホルダ』です。ツーリング型の治具交換用ホルダに、イケール等の治具を取り付け、円テーブルへセットして使います。素早い治具交換と強い結束力、そして高い繰り返し精度を実現するツーリング技術を応用することで、技能や経験に左右されず簡単に芯出しができる治具が完成。加工中のワーク外段取りで、機械稼働率は確実にアップします。この商品は将来容易に進化できます。治具の手付けでも効率は上がりますが、ロボットを導入する際、ホルダのフランジ形状が規格化されているためハンドは1つで済むからです。このシステムの原型は弊社工場において20年来、生産効率化の主役として活用されてきました。まず生産の効率化、そして同時にロボット化への道筋もつけられる、潜在力の高い商品です」

■速度と剛性の両立を目指す円テーブルREDシリーズ

――円テーブルではいかがですか。

「さらにタクトタイムを短縮したいユーザーへ新機構『RED』搭載の円テーブルを提案します。通常のローラーカム機構はタレットから水平にカムフォロアが配置されるのに対し、REDは垂直に配置されるバレルカム機構を採用しています。その形状に出力軸の大きさも加わり、同じ面板径のローラーカム機構より剛性が約25%優れます。長年培ってきた高剛性、高精度技術を元に、時代のニーズに応える高速性能を加えた製品です。力の伝達効率が良くバックラッシュがないため、条件次第でブレーキレス加工も可能です」

――剛性は捨てず速度を付加した。

「やはり道具は役に立ってこそ。速度を求めた結果、剛性が下がり精度が落ち切削ができないのであれば選んで頂けません。我々が提供するREDは、剛性もスピードも目指した新たな選択肢です。高剛性を誇る超硬ウォームシステム搭載機やDDモータ仕様機などと併せ、ユーザーニーズに最適解を提供したい。もちろん、それぞれに1軸機だけでなく2軸機も展開します。さらに、MECTではこれらの商品に加え、ツールプリセッタやリーマによる生産効率化も提案します。自動化を中心に、総合的な製品群で多様なニーズに対するONE STOP SOLUTIONを用意する。選択と集中の逆ですね」

「ユーザーは今、生産人口の減少と多様なモノづくりへの対応という重いテーマに直面しています。解決策として最新鋭の工作機械導入に加え、その実力を最大限発揮するには周辺機器が最後の一歩を埋める必要があります。我々の社内的な合言葉は『小さな見直しが大きな力になる』。責任は重大ですが、我々の仕事の醍醐味がここにあります」

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RED搭載の円テーブルは高速・高精度な割出が可能。条件次第でブレーキレス加工も実現する

若手を呼び込むカッコ良いホルダ


赤錆を黒錆で制する「黒のホルダ」。元はセラミックなど、ドライ加工を行う脆性材向けに開発されたものだ。今ではマガジンに挿しっぱなしのホルダの防錆に重宝されるが、他にも予想外の反響がある。若手経営者を中心に、黒色のデザインを好感する現場が増えているのだ。「製造業に若年層を呼び込むにはカッコ良さも重要ということでしょう。高精度や自動化の支援が道具屋の務めと思ってきましたが、我々自身も勉強になりました」

(2023年9月30日号掲載)