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日本無機 企画部 商品企画担当部長 三関 元 氏

大幅省エネ導くフィルタのチカラ

製造現場を考えるうえで、今や外すことのできない重要課題となった省エネ。産業界への取り組み要求は日増しに高まっており、特に工場における消費電力の見直しは業界を問わず喫緊の課題だ。市場には省エネをうたう製品も増えているが、一方で空調フィルタの選択で電力消費を抑えられることは、あまり知られていないのではないか。製造業の中でも電力消費が大きいクリーン工場の空調向けに、HEPAフィルタを用いた省エネ化提案を行う日本無機の、企画部商品企画担当部長 三関元氏に話を聞いた。

新フッ素樹脂ろ材を用いたHEPAフィルタ。主に外調機向けのセパレータ形、内調機・天井装置向けのエンボス形、天井装置向けのミニプリーツ形の3種を展開している。

独自素材で低圧力損失&長寿命

独自開発の新フッ素樹脂をろ材に用いたHEPAフィルタ(定格流量で粒径が03マイクロ㍍の粒子に対して9997%以上の捕集効率をもつ高性能フィルタ)を、クリーン工場向けに提案されています。開発の経緯は。

「まず、クリーンルームで用いられるフィルタには、大きく分けてプレフィルタ・中性能フィルタ・高性能のHEPAフィルタがありますが、これらを空調の中に組み込むと抵抗、いわゆる圧力損失が生じます。中でも目の細かいHEPAフィルタは圧力損失が高くなり、結果として空調機器の電力消費も大きくなるわけです。この圧力損失を抑えるため、一般的なガラス繊維ろ材に代わってより繊維の細いフッ素樹脂を用いたPTFEろ材が登場したのですが、構造的に弱く、ゴミを捕える『捕集層』の厚みが出せないためすぐに目詰まりを起こすのが難点でした。そのためPTFEフィルタは前処理された清浄な空気が流れ込む天井ユニットなど、限定的な箇所での採用にとどまっていたのですが、この課題を解決すべくダイキン工業との共同開発で生み出されたのが、新フッ素樹脂をろ材に用いたHEPAフィルタです」

圧力損失を低減しつつ、PTFEの課題だった寿命を長期化したと。

「そういうことです。新フッ素樹脂はPTFE同様に繊維が細く、圧力損失をガラス繊維と比べて大幅に低減しています。一方で特殊な繊維コントロール技術により、捕集層に厚みを出せる構造を実現しました。厚みを活かしてろ材全体でゴミを捕集する『深層ろ過』が可能のため、低圧力損失というメリットをそのままに、ガラス繊維と同等の長寿命を発揮できます。目詰まりを起こしづらく、天井ユニット以外に外調機などでの使用も可能です」

具体的にどの程度の省エネ効果が期待できるのでしょうか。

「我々はHEPAフィルタ以外に中性能フィルタでもエンボス構造を特長とした低圧力損失型の製品を展開しており、フィルタ全体を低圧力損失化することによる省エネを提案しています。実際のクリーンルームにおける省エネ効果計算例では、プレフィルタ・中性能フィルタ・天井装置用のHEPAフィルタすべてを低圧力損失化することで、年間消費電力を460メガ㍗から336メガ㍗に低減。消費電力を年間で約27%削減し、電気代を年間約250万円削減できる結果となりました。イニシャルコストこそガラス繊維と比べ上がりますが、低圧力損失による省エネ効果により、約1年でイニシャルコストの上昇分をカバーできます。フィルタの寿命は3年程度あるため、2年目からは純粋にメリットを享受できる計算です」

脱炭素の推進によって省エネへの関心が高まっています。販促活動でも追い風を感じますか。

「上市から約9年が経過していますが、当時よりもユーザーの省エネに対する関心が高まっているのを肌で感じますね。SDGSや脱炭素の流れを鑑みても、やはり工場の省エネは重要度の高いテーマです。近年は半導体工場の外調機に加え、主に製薬工場の外調機向けに新フッ素樹脂HEPAフィルタの採用実績を増やしています。とはいえ普及状況はまだまだこれからというところ。新フッ素樹脂は世界でも我々しか作れない独自素材のため、省エネ効果による社会貢献という意味でも、この素材のさらなる普及を進めていきます」

2022710日号掲載)