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Tech Japan CEO 西山 直隆 氏

IT大国インドの理系頭脳を日本企業へ

「日本の製造業こそインド人材を活用してほしい」とTech Japanの西山直隆CEOは力を込めた。世界最高峰の理系頭脳が集うインド工科大学(IIT)。IITの卒業生がビッグ・テックの中核を担っているのは知られた話だが、一方でIITが行う1度きりの面接で内定を決める従来の採用プロセスでは、欧米企業と比べ知名度が低い日系企業は望む人材を獲得しづらい。Tech JapanはIITと提携した独自の採用プラットフォームで、この状況を一新しようとする。ハードに強い日本の企業がソフトに強いインド人材を採用しやすくなれば、国際競争における勝ち筋も見えてくる。

製造業こそインド人材の活用を

――日本の企業とインドの優秀な理系人材の橋渡しをされています。

「複数のサービスを展開していますが、核はインドの優秀な理系人材が日本の企業と接触できるダイレクトリクルーティングのためのプラットフォーム『Tech Japan Hub』。インド最高峰の理系学府・インド工科大学(IIT)と提携し、民間企業で初めて大学内就職課で活用されるシステムを開発・運用しています。学生はTech Japan Hubに履歴書や自己紹介動画、開発実績などを登録。日系企業はそこへアクセスすることで効率的な交流を図り、インターンシップを通じた採用につなげます。IITをはじめインドの優秀な理系学生12千人が登録しています」

――IITの独特な採用プロセスが日系企業の採用を阻む壁と聞きました。

IITなどインドのトップ校は多くがキャンパスリクルーティングを導入しています。企業が大学を訪問し学生と面談するのですが、時間が30分程度と短いうえその場で内定の有無を決めなければならない。学生もすぐにオファーを受けるか決断し、受諾するならその後に控える企業との面接はすべてキャンセルです。誤解を恐れず言えば、優秀な学生ほど早く抜けてしまう。また面談日程はIIT側が企業の知名度や給与などを総合的に判断して決めるため、日系よりGAFAMなど欧米系企業が有利です。日系企業にとっては時間と費用がかかるうえ採用自体うまくいきづらく、ミスマッチ率も高い構造と言えます」

――Tech Japan Hubの仕組みを詳しく教えてください。

Tech Japan HubIITと共同設計した従来の採用の仕組みに『乗らない』プラットフォーム。キャンパスリクルーティングの前に夏休みなどを利用したインターンシップで相互理解を進め、技術力やパーソナリティを互いにじっくり見極める場を提供します。企業はインターンを通じ意中の学生に先んじて内々定を出せます。内々定を承諾した学生はその後の採用プロセスには進みません。内々定の受諾率は94%と高く、大手からベンチャーまで様々な企業がこのサービスを利用しています」

――ご自身の感じるIITなどインドの理系学生の優れた点は。

「概してアントレプレナーシップ(起業家精神)が旺盛。我々のユーザーである義足メーカーでも、インターン生が2カ月分のプロジェクトを2週間で終え、自ら能動的に市場調査を行い事業をけん引した例があります。IITは授業が英語で英語力にも長ける。またIITでは基本的にコンピュータサイエンスを学んだうえで専門分野へ進むため、専門が機械でもIT×機械という具合にシームレスな知識を身につけています。毎年約100万人が受けるインドの統一試験で、上位1%しかIITには入れないので非常に狭き門です。重点的な採用を行ううえでインドおよびIITは非常に魅力的です」

■半導体がIITに熱視線

――実際のところ、IITの学生にとって日本企業は魅力ある就職先なのでしょうか。

「魅力以前に、一部を除きそもそも日系企業を知らない学生が多いと感じます。学生も知名度のある会社への就職を半ば自然と捉えており、日本の企業で働くという選択肢がそもそも頭にないのでしょう。だからこそ我々は情報提供を重視します。Tech Japan Hubでは企業の技術の詳細や過去のインターンに参加した先輩のフィードバック(感想)など、情報の可視化に努めています。昨今は世界的企業に就職してもレイオフや短期離職などリスクも多い。それより日系企業のような人を大切にする環境、技術力を持つ企業で成長したいと考える学生も増えている印象です。Tech Japan Hubへの登録数も年々増えています」

――インドの学生を採用するうえでの企業側の心構えは。

「前提として文化は違って当たり前。お互いを尊重さえすれば採用する側に過剰な心構えは不要だと思います。今でこそグローバル人材が活躍する企業も実際に受け入れをしながら態勢を整えてきた歴史があるはずで、最初から完璧な組織はない。インターンならオンラインでも可能ですし、仮にうまくいかずとも次につながる課題が見えます。スモールスタートで小さな成功体験を積むのが、日系企業における持続可能なグローバル人材の活用ステップです」

――日本の製造業も技術者不足に悩んでいます。

「日本はまだまだモノづくりの強い国。ハードが強い日本とITが強いインドの力が噛み合えば、今以上に世界で戦えるプロダクトが生まれるはずです。韓国や台湾の半導体産業はすでにIITからの採用を加速させています。日本でも半導体の技術者不足が叫ばれますが、IITはそれに資するスキルを持つ人材も豊富です。我々もTech Japan Hub以外に、インドの人材を中途採用できる『Tech Japan Job』や、我々自身がベンガルールの現地法人で技術者を雇用して日系企業のプロジェクトをリモートで行う『Tech Japan EOR』など様々なサービスを展開しています。せひ製造業こそインド人材の活用を始めてほしいですね」

(2024年2月25日号掲載)