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真潮流~29

「標準化」で独創的な製品を生み出す
−トップダウンによる推進が必要−

日本は標準化が苦手とされ、「世界標準で主導権を握れない、標準化で世界に遅れを取っている」などとよく聞く。工作機械産業関連分野でも状況は同じで、課題の1つと感じている。

この背景には、日本の企業は「標準化」を業界のためというより自社の戦略のためとして捉えており、むしろ標準化しないで他社との差別化技術としておき、自社ユーザの個別の要求に細やかに応えたいということがあるように感じる。また標準化により、独自の設計が困難になり、独創的な製品を生み出し難いと考えているようにも思われる。

ここで改めて、加工システムとしての工作機を構成している、主軸などの基幹ユニット、各種周辺装置・機器、要素部品、ツーリングシステムなどの各種構成要素の標準化について考えてみる。標準化は、これら要素メーカ各社の製品を同じ仕様として、工作機械メーカ各社で共用するためのものではなく、要素メーカ各社の独創的な製品が各工作機械メーカの工作機械と容易に繋がり、どのメーカの工作機械上でも使えるように繋ぎの部分を共通化(標準化)しようというものである。このような標準化がなされれば、下記の様なメリットが得られることは容易に理解できるものと思われる。

例えば、工作機械メーカとしては、多様な製品群から自社に適した要素を選択でき、自社の独自性を発揮させるための本体の開発設計に集中できる。これにより開発費を抑え、組み立て易くなるとともに、納入後の交換修理などが迅速に実施できる。また、接続部に互換性が生まれれば、ユーザの希望に応じて多種多様な要素メーカの製品を組み込むことも可能になる。

要素メーカにとっては量産しやすくなり、コストを下げることができ、工作機械メーカ各社ごとに必要となっていた繋ぐ部分の設計負荷が軽減され、工作機械メーカと同様に自社の製品開発にエネルギを集中できることになる。

一方、デメリットもある。例えば、工作機械メーカとしては標準化により、周辺装置などでの独自性を発揮できないため、構成要素による差別化が困難になる。要素メーカとしては競合メーカが増え、シェアが下がる、コストも下がるなどが挙げられる。

以上のようなメリット、デメリットを改めて見てみると、標準化の目的が明確になっていないため、デメリットのイメージだけがクローズアップされ、標準化が進んでいないように思われる。

標準化は、他社でもできる仕事と、自社の独自技術を必要とする高度な仕事とを仕分けるためのツールであると言える。つまり、標準化により、より独創的な製品を産み出しやすくなる環境が構築できることになる。

ドイツのインダストリ4.0は、これを国家レベルで行なおうとしている。ドイツの目標は「未来の製造のための標準形の確立」であるとされている。開発から生産、供給までを標準化し、ドイツの製造プロセスを「世界標準」にしようとしている。これにより世界から協力を得やすい環境を作り、独自の製品を開発しやすい環境を構築しようとしている。

このように標準化には、国レベル、産業界レベル、企業レベルと多くのレベルが存在している。ここで重要なのは各レベルにおける標準化の目的、メリット、デメリットを十分に認識して進めることと思う。このためにはトップダウンで、各レベルに応じた標準化を推進できる強力なリーダが必要と言える。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。