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識者の目

真潮流~28

欧州工作機械はなぜ独創的か
−固定概念にとらわれてはいけない−

筆者は1989年のEMOを視察したのを皮切りに、その後何回か事情により抜けもあるが、1995年からは世界の3大国際工作機械見本市を連続して視察してきた。その度に欧米の独創的な工作機械を見ては、感心している。ここでは、何故日本からはこのような独創的な機械が少ないのか、その要因について考えてみた。

工作機械には多くの種類があるが、基本的にはそれらは、旋削加工、フライス加工、穴加工など、その機械が行える加工作業により分類され、旋盤、フライス盤、ボール盤……などが存在している。そしてJISでは、旋盤は「工作物を回転させ、主としてバイトなどの静止工具を使用して、外丸削り、中ぐり、突っ切り、正面削り、ねじ切りなどの切削加工を行なう工作機械である」と定義され、また、角テーブル形平面研削盤は「往復運動をする角テーブルをもつ、平面を研削する研削盤である」と、それぞれ定義されている。

工作機械は工具、工作物の相対運動により、各種エネルギを用いて素材の不要部分を取り除き、所用の形状・寸法に作り上げる機械である。この定義に基づけば工具、工作物のどちらが運動してもよいのである。しかしながら、JISでも各種工作機械を上記の様に構造要素の運動様式により定義しており、この固定概念に縛られていることが、日本から独創的な工作機械が生まれない要因になっているように思われる。

図(1)は上記の定義を打ち破って開発された自動旋盤(自動盤)で、工作物を非回転として、工具が毎分12000回転で旋回する。このように工作物を非回転にしたことにより、棒材にしか対応できなかった自動旋盤で、コイル状にした工作物材料が使えるようになり、材料自動供給装置を飛躍的にコンパクト化できた。

一方、図(2)は角テーブル形平面研削盤であるが、砥石頭が上下運動しテーブルが左右・前後に往復運動するという上述の定義には従ってない。テーブルは上下運動を行なっており、左右・前後の往復運動は砥石頭が行っている。これにより従来から課題になっていた、剛性の弱いコラムを無くした。また、テーブルが左右運動するためのスペースも不要となり、機械も飛躍的にコンパクトになり、高剛性、高精度を実現している。

このような状況は、5軸マシニングセンタ(MC)でも同様である。5MCは基本構造として、工作物側で2軸旋回運動を行なうもの、それを工具側で行なうもの、両者で1軸ずつ旋回運動するものが存在している。これに3軸の直進運動を、工具側、工作物側のどちら側で行なうかで、多様な5MCが作られている。特に、欧州メーカからは、圧倒的に多種多様な構造形態の5MCが提案されている。この根底にはやはり、先に述べたような工作物の形状創成運動の基本原理・原則が頭に入っており、自由な発想で工作機械の構造形態を考えているものと思われる。

もっと独創的で、革新的な構造形態の工作機械を発想するためには上述したように、構造要素の運動様式で定義されている各種工作機械の固定概念を捨てる必要がある。その基本は、工作機械の形状・寸法創成は、工具と工作物の相対運動の組合わせによりなされる。それらの運動には回転運動と直進運動があり、切りくずを出すための主運動、形状を創成するための送り運動、寸法を決めるための切り込み運動という3つの機能のいずれかを果たしているということだ。これらを念頭に、より自由な発想で、必要な加工機能を実現できる工作機械を考えることが重要と言える。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。