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識者の目

真潮流~27

見える化で繋ぎやすくする
−「見せる化」センスが必要に−

現在、デジタル化技術とIoTを活用した、製造現場の見える化が鋭意進められている。

具体的には、製造現場の全ての現象をデジタル化して、見える化し、IoTを用いて生産システムの構成要素間をつなぐことにより、システム全体を最適化して革新的なものづくりを実現しようとしている。この見える化の対象となっているものとしては、ものづくりに直接的に関わっている工作機械をはじめとして、クーラント供給装置、切りくず処理装置、工作物ストッカ・ストレージ、ロボットなどの周辺装置やツーリングシステムを含む、多くの機械・機器類が挙げられる。その実現のためには、これら生産設備を構成している軸受やころがり案内、ボールねじ、モータなどの構成要素類の稼働状態の見える化が進んでいる。さらには、加工中に生ずる切削抵抗、切削温度、工具摩耗などの加工現象や、工具・工作物の準備状態などの現場作業状況など、多くのものを見える化することが必要とされている。この見える化の大きな意義は、各システム構成要素が繋ぎやすくなることであると感じている。工具摩耗状態が見える化されれば、致命的な問題が起きないうちに自動工具交換装置が工具交換の準備に入ることができるなど、加工プロセスと周辺装置の連携がうまくいくというわけだ。このように、見える化により、繋がれるものが見える化され、ものづくり現場の多くの課題が解決されることが期待されている。

製造現場の人間の見える化にも同じ事が言えるように思う。現場では、技術の伝承が困難と言われているが、新人からみると、伝承しようとしている熟練者(巧)の技がよく見えていない。熟練者からみると、新人が何が理解できていないのか、何を教えれば、技術の伝承がうまくいくのか、その新人の知識レベルを正確に把握できていないように思われる。新人と熟練者間だけではなく、メーカとユーザ間でも、そのコミュニケーションが不十分であることが問題になるが、これらは、お互いが、お互いに見える化されていないために、お互いの間に壁が生まれていることが要因のように思われる。これらを解決するためには、見える化とうよりは、先ずは、お互いに自らを「見せる化」することが大事なように思われる。新人は、何が分らないのか、何を学びたいのかを明確にする。一方、熟練者は、どのような分野の知識・技術であれば教えられるのかを、新人にきちんと伝える。これにより、新人は教えてもらいたいポイントを明確にして、熟練者に指導をお願いできることになる。熟練者は、新人の分らないポントを押さえて、易しく教えることができる。このように、お互いに自分を見せる化することにより、お互いが見える化され、お互いのコミュニケーションがスムーズになり、つながりが強化されるように思われる。

先に述べた製造現場の生産設備関連の見える化にも、同じことが言える。現状の見える化は、監視・管理のための見える化になっているように感じる。今後は、見える化を更に有効活用するためには、「見せる化」のセンスが必要と思われる。工作機械メーカとしても、工作機械を単に見える化し、それに基づき製造現場の自動監視システムを構築するだけではなく、工作機械ユーザに色々な気付きを与える見せる化が必要である。つまり、見える化ではなく、工作機械を見せる化し、機械と人間(ユーザ)をつなぎやすくし、ユーザの製造現場の更なる発展を促すような見える化を支援すべきと思う。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。