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識者の目

真潮流~26

世界に学ばなくなった?日本
−学ぶのと真似するのは異なる−

最近のコロナ感染対策の様子を見ていると、日本は、世界に学ばなくなったように感じる。昨年の1月以降、コロナ感染対策がうまくいっている国々を参考にしながら、日本独自の方法がいくつ実施されたであろうか。

戦後の崩壊状態にあった工作機械産業は、海外に追いつけ、追い越せで、海外工作機械を貪欲に学び、独自の工作機械開発に熱心であった。最近、弊博物館の博物館ニュースにて北米地域の国際工作機械見本市IMTS(通称シカゴショー)の日本メーカの初参加時の様子を思い出話として各社にご寄稿を頂いた【*1】が、その様子がはっきりと伺えた。海外の国際展示会に積極的に出展し、自らの実力を自己評価し、海外の工作機械に不足しているものを見出した。その一つが安くて使い易いNC工作機械であった。当時の米国工作機械メーカは、大企業を相手として大量生産向きの専用機的なNC工作機械を中心に市場に供給していた。このような状況の中、中小企業は、自分たちでも買える、安くて使い易いNC工作機械を求めていることをいち早く察知し、それに応えるNC工作機械の開発に精力を注ぎ、米国における市場を獲得していったのだ。

ところが、今やトップ3の工作機械生産国になり、技術的にはドイツと同格で戦える立場になり、当時のような、世界に学ぼうとする貪欲な姿勢がみられなくなっているように思われる。トップクラスにあるので世界に学ぶ必要もないし、学ぶものも無いと考えているようにも感じる。世界にどの様な競合メーカが存在し、どの様な機械を製造しているかについてどの程度正確に把握し、社内で共有されているのか、疑問に思うことがある。もっと世界の技術レベルを調査・分析し、その実態を把握し、次期戦略を考えていく必要があるように感じる。特に、より多くの独創的な工作機械が排出されない、できない要因は何であるのか、そのためにはどの様な環境構築を行なう必要があるのかなどを徹底的に分析する必要がある。

日本は、技術新興国から真似されることを神経質なほどに、嫌っているように感じる。我々も、見よう見まねで、海外の工作機械から学び、成長してきたことを忘れてはならない。学びは真似ることから始まるとよく言われる。そして今、真似される立場になったことを認識し、海外から教わり成長してきたように、今度は我々から学んで頂く立場になっていることも再認識する必要もある。

真似される事を嫌うことから、自分達も真似しないとの気持ちが強く、他社から学ばなくなり、他社には興味が無くなるという悪循環になっているとも思える。真似するのと学ぶのとは大きな違いがある。学びのレベルが高くなれば、真似て学ぶのではなく、お互いに相手の素晴らしさを尊敬の念を持って学び合い、独自のものを産み出していくという、切磋琢磨による学びが重要になる。

また、学ぶ対象は自分より上位にあるものだけではなく、下位にあるものからも多くのことを学ぶことができる。例えば、低コスト機を作るメーカがどの様な生産技術でローコストにしているのかを知ることも大きな学びである。手抜きをして安くしているのであれば、手を抜かないと安くできないことを知ることができるし、そうでない場合には、その生産技術を学び、独自の生産技術を編み出すヒントになる。

今でも、学生から色々と教わることも多い。自分以外の全てが、学びの対象であることも再認識しておきたい。


*1】清水伸二:IMTSの変遷と日本の工作機械メーカに与えた影響、博物館ニュース、日本工業大学工業技術博物館、No.107 2020pp.1-8

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。