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識者の目

真潮流~31

これからのマニュアル工作機械
-技術・技能の伝承と加工理論の見える化-

早、半年前になるが、コロナ禍で3月2日から4日にかけてGrinding Technology Japan 2021(研削加工技術と工具製造技術展)が幕張メッセにて開催された。

久しぶりの対面での展示会であったこともあり、毎日視察に出かけ、楽しませて頂いた。昨年のJIMTOF2020 OnlineでのWebによる視察のようなストレスは無く、展示会場に入った時の雰囲気から技術動向などを肌で感じながら視察ができ、改めて対面展示会の素晴らしさを感じた。

研削加工は、特に段取りが多く、加工精度も切削加工より1ランク上のレベルが要求されており、そのNC化とともに自動化が強く要求されている。工具研削盤になると、その段取り作業はさらに大変になる。その中で、松澤精工が写真に示すようなマニュアル機を出展していた。殆どの工作機械がNC化されている中で、マニュアル機のニーズはどの様なところにあるのかを聞いてみた。すると、「公的教育機関での技能訓練や企業での現場実習用として活用されており、まだまだニーズがある」との回答が返ってきた。特に、日本企業が海外に進出し現地生産する際に、現地の人材育成用として多くのマニュアル機が活躍しているとのことで、マニュアル機の果たす役割は今後ともなくなることは無いとの感触を得た。そして、この展示されていた工具研削盤には各種工具を加工するための特別付属品が30種類もあり、より使い易くするために各種工夫がなされており、驚かされた。松澤健二社長曰く、「人材育成をより意識した工具研削盤とするため、技能の伝承、NC工具研削盤を使い切ることができる人材を育成するのに適したマニュアル機を目指している」とのこと。そしてさらには、「工具の切れ味を良くするための技術や理論を学べる機械を念頭に置いており、できる限りモデルチェンジは行なわない」ことを基本姿勢としているとのことで、大変感心した。

マニュアル機では、全ての機械操作、加工作業を自分で行なうことから、多くのメリットがあるとされており、それらをまとめてみると以下のようになる。

11つの部品を作るための全ての作業を自分の手作業で行なうため、一つ一つの作業の必要性とその意味・重要度が理解できる。

2)ハンドル操作により加工力を加えるため、工具の切れ味の善し悪しを体感できる。

3)切りくずや加工面、加工音により、切れ味が分るようになるなど、適切な加工が行なわれているかを判断するセンスが身につく。

4)自分で決めた切れ刃形状や加工条件などにより、切りくずの形状や切りくずの流出方向、飛散方向などの加工現象がどのように変化するかなど、両者の相関性を実体験できる。

5)カバーの無い状態での作業を通して、作業の安全性への意識が育つ。

以上のように多くのメリットがあり、これらのメリットを通して技能・技術の伝承が進み、加工理論の理解が深まれば、加工技術者の育成だけではなく、NC工作機械の技術開発力の向上にも貢献するものと思われる。より実践的な加工技術、加工理論が学べるようにするためは、今の最新のセンサを組込んだ見える化技術を駆使することにより、より高度な学びの仕組みを搭載した、さらに進化したマニュアル機の開発が必要と言える。これにより有能な加工技術者が育てば、各工作機械が固有に持っている性能を十二分に生かし切る加工が行えるようになる。これらが、より高度なNC工作機械が開発される源泉になることも期待したい。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。