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識者の目

真潮流~34

工作機械教える人材育成が急務
-学ぶ目的・目標・方法を明確にして-

筆者は定年退職後、大学での講義、学会や工業会での基礎講座、企業での技術者研修などで工作機械の講義をさせて頂いている。これら講義における受講者の反応からは、ものづくり関連の基礎専門科目の教育が十分に行なわれていないと感じる事が多い。

さらには、工作機械という科目を開講している大学も少なく、3割程度と思われる。開講していない幾つかの大学では、ものづくり関連の科目の中で工作機械の概論的な講義を1回程度行っているのが現状である。これでは次世代を担う若手の人材育成どころか、将来、工作機械の教育を行える中堅の研究・教育者が枯渇してしまうことが危惧される。

高性能な工作機械を生み出すためには、図に示すように機械工学の各種専門分野の知識が縦横に生かされており、工作機械を学ぶことにより材料力学、機械力学、流体力学、伝熱工学、制御工学などの基礎専門科目の知識がどの様に活用できるのかを学ぶことができる。このように工作機械は機械工学の生きた教科書と言え、基礎専門科目の総合演習科目として、機械工学分野の必修科目として欲しいくらいの科目である。

このように工作機械の講義を行なうことの意義を認識し、先ずは産学で工作機械を教えられる人材を育てる必要がある。1人では、より多くの人間に教えるには限界がある。教える人材が育てば、その人数倍だけ、ものづくり人材の育成が可能になるのだ。

教育機関では工作機械を教える目的・目標とともに、本連載の第17回で述べたような教えるべき項目と教えるプロセスを明確にしておく必要がある。そして、教える際には上述のように基礎専門科目の知識がどのように生かされているかについて事例を持って示すことが大事であり、その理由を考えさせながら解説することも重要である。例えば、工作機械には何故このような構造形態が採用されているのかなどを考えさせ、専門科目における基礎知識がどの様に生かせるのか、生かされているのかを理解させることだ。これが色々な事に興味を持つ姿勢を育むことにつながると考えられ、このような教育を縦横に行える教育人材の育成が必要である。

一方、企業内での教育ではOJTが主体になっていると思われるが、あまり旨く機能していないように感じている。企業向けの基礎講座の講師を務めさせて頂き驚くのは、工作機械メーカに勤め、開発設計に携わっていても、工作機械の参考書を1冊も持っていない、読んだことも無い受講者が多いことだ。まず、このような仕事に対する取組み姿勢を正す教育から行なう必要がある。OJTで実務をこなしていれば、専門知識が身についていくと考えるのは、大きな間違いであるし、効率が悪すぎる。上司としては、部下にこの仕事を経験させ、何を学んで欲しいのか、そしてどの様な成長を期待しているのかなど、その目的・目標を明確に伝え、本人にもそれらを自覚させて業務に取り組んで貰う必要がある。企業内では、現場に行けば実物も見る事ができる。それらを活用すれば、何故このような構造になっているのか、何故この図面はこのように修正されたのかなど、学びの対象は無限にある。色々と何故を考える切っ掛けを与え、自ら学び、成長していくような環境作りが必要だ。これが本来のOJTではないかと思う。実務をこなしながら、現場に足を運び、現場からも多くのことを学び、センスを磨けば、その成長力も更にパワーアップする。このようなOJTをより効果的に実践できる指導者の育成が重要だ。

以上のように、産学で連携した継続的な人材育成を行なう必要があると言える。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。