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識者の目

真潮流~35(最終回)

連載を終えるに当たって
-続きは、工作機械を動態展示する弊博物館で-

今回で、本連載を終了することになった。約1年半の連載であったが、コロナウィルス感染の第1波が終わった頃に開始し、第5波の終息というタイミングで最終回を迎えることになった。振り返ると「工作機械」「ものづくり」「教育・啓蒙」「一般社会(コロナウィルス感染など)」「工作機械の歴史」「周辺装置・機器」などをテーマに色々と提言させて頂いた。

工業技術博物館本館展示場風景

中でも、工作機械、ものづくり関連が多かった様に思う。工作機械については、皆様にもっと知って頂きたいとの思いで、その特質、本質について述べさせて頂いた。製造プロセスをはじめとするものづくり関連では、解決すべき日本的課題が多いと感じており、色々と提言させて頂いた。筆者は、工業技術博物館に勤務していることから、勤務しながら感じた工作機械の歴史についても何回か触れさせて頂いた。もう少し工作機械技術史を極めてから、色々と感じたことをお伝えしたかったが、時間切れとなった。この補足のためにも、是非、皆様には弊博物館にご来館頂き、お伝えできなかったことを、実物を見ながらご体感頂ければと思う。そこで、本紙面をお借りして、弊博物館の、他の博物館では見られない特長をご紹介させていただき、本連載を終えさせて頂くことにしたい。

弊博物館の大きな特徴は、写真に示すように、約270台という歴史的価値の高い多種多様な工作機械を多数所蔵し、その約7割を動態保存していることである。

この多種多様な多数の工作機械を所蔵していることにより、以下の様な特長が生み出されている。

①多種多様な名機が一堂に展示されており、改めて工作機械の種類の多さとそのニーズの多様さを感じ取ることができる。

②多種多様な名機がほぼ年代順に展示されており、工作機械技術の発展過程を、案内、制御、駆動源とその伝導方式など、色々な技術的切り口から学ぶことができる。

さらには、動態保存していることにより、以下の様なことが可能になる。

③複雑な動作を機械的な巧みな機構により実現した先人の知恵と発想力、設計技術力に感動できる。

④昔の町工場を当時のままに復元して展示しており、当時の物作り環境を体感し、イメージできる。(たとえば植原工場〈ハンドポンプ部品加工〉、山本工場〈歯磨きチューブ金型部品加工〉、時計工場〈巡回時計部品加工〉、研削加工工場〈紡績機械部品加工〉)

以上の他、以下の様なことも可能にしている。

⑤日本が学んだオリジナル機とそれを基に設計製作された国産機を比較して見ることができる。(日本の先人が世界から学んだ過程とその努力、情熱、苦闘を感じ取ることができる)

⑥工作機械の基本構造を裸の姿で見ることができ、工作機械に必要とされる基本構造要素とその役割を知ることができる。

⑦同じ機種でも、異なる構造形態の機械を見ることができ、その構造形態とした理由(何故)などを考察することにより、工作機械構造のあり方、設計の原理・原則などを考える切っ掛けができる。

⑧工作機械により産み出された、超大形製品から小物製品まで多くの工業製品も展示しており、工作機械の産業界における役割の大きさを改めて感じることができる。

以上のように、多数の特長を持った博物館となっている。

これら特長を有効に活用して頂き、過去の工作機械の何故を考え、現在を理解、評価し、未来の工作機械について考える場として、ご利用頂けたらと思う。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。