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識者の目

製造業DX実現のカギ~第1回

「企業変革力」を高めるデジタル化

デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が言及され始めて数年が経過しようとしている。また、製造業においてもDXへの期待が高まり、多くの企業や団体でその取り組みが始まっている。

製造業のDX化を進めるチームクロスFAの拠点「スマラボ東京」

製造業でDXが実現され新しい価値を生み出すために、テクノロジーの活用が必要不可欠であることは論を待たない。また、日本には「生産技術」「製造技術」「制御技術」「情報技術」など多くのものづくりに関連する技術と、それらを統合、活用する技術が蓄積されている。

そこで、製造業にテクノロジーの力を活用し、今までにない新たな価値や仕組みを提供することを「Industry Tech」と私たちは定義し、この「Industry Tech」を私たちはコンソーシアム「チームクロスFA」として提供している。これにより、包括的かつ一気通貫でソリューションを提供している。

本連載は「製造業のDX」に対する理解が深まり、「製造業のDX化」を加速させるきっかけとなるようなものにしていきたいと考えている。

さて、デジタル化が広がりを見せることで、経験が言語化され、共有、活用、展開ができるようになってきた。かつては長い経験を積まないと難しいといわれていた職業に多くの人が就くことができ、個々の仕事はおろか、社会全体の効率が上がってきているとも考えることができる。

私が長年携わっている製造業の現場では、「デジタル化は進んでいない」という論調も見受けられるが、実際は徐々に「デジタル化」は進んでいる。ここでいう「デジタル化」は「デジタル技術の利用により、効率化やコスト削減を行う事」を指し、最近では「デジタライゼーション」とも言われている。この「デジタル化」は、製造業の中でも私自身の社会人経験を通じ、着実に進展していると言える。

かつては特定の人しか操作できない装置を若手が操作できるようになったり、ベテランしか判断できなかった機械の故障予知を、センサとAIの組み合わせで判定できたりするようになってきている。これらも根底にはデジタル化の広がりが大きく寄与している。 

■不確実な時代ゆえデジタル化が急務

そもそもなぜデジタル化が必要なのか。キーワードは「不確実性の高まり」だ。これについては、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大が始まる前から指摘されている事項である。

経済産業省・厚生労働省・文部科学省による「2020年版ものづくり白書」でも、総論において「不確実性の高まる世界における我が国製造業の現状と課題を分析。不確実性に対応するためには、製造業の企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)を高める必要があり、その際デジタル化が有効」「デジタル化により製造業の設計力を強化し、企業変革力を高めて不確実性に対処するための方向性を示す」と明示されている。

さらに白書では「不確実性の高まりにより、グローバル・サプライチェーン寸断のリスクが浮上」「不確実性の高い世界では、環境変化に対応するために、組織内外の経営資源を再結合・再構成する経営者や組織の能力(ダイナミック・ケイパビリティ)が競争力の源泉となる」「ダイナミック・ケイパビリティの要素は感知”“捕捉”“変容の三能力(デビッド・J・ティース・UCバークレー校ビジネススクール教授)」「これらの能力を高めるためには、デジタル化が有効。デジタル化の意味は、ダイナミック・ケイパビリティの強化にある」と締めくくられている。

つまり、「デジタル化」は単なる流行や便利なツールではなく、企業が存続するための、最低限の条件ということになる。特に製造業においては、デジタル化の成否が自社の将来を左右する。どれだけ経営者がデジタル化に本気で取り組めるか、どれだけ組織として注力できるかが、5年後、10年後の自社の将来を決めるといっても過言ではない。

次回からは製造業におけるデジタル化が必要な領域をより実践的に紹介していく。

チームクロスFA代表 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『Team Cross FA』ではプロデュース統括を担っている。趣味は車、バイク、ゴルフなど。