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真潮流〜8

工作機械の静剛性向上法
 ー つくられる構造も、つくるプロセスも直列結合

工作機械の性能を高めるには、静特性(静剛性)、動特性(動剛性)、熱特性、運動特性をより良いものにすることが求められる。したがって、工作機械はどの様な静的な負荷が掛かっても許容の変位を越えないように、どの様な振動的な負荷が掛かっても許容の振動変位を越えないようにする必要がある。さらに、どの様な熱的負荷がかかっても許容の熱変位を越えないように、そして、どの様な運動をしても許容の運動誤差変位を越えないように設計がなされている。

【図】ベッド形フライス盤の構造モデル

ここでは、静剛性の向上法について考えてみる。静剛性(K)とは、力(F)/変位(X)で表される評価値であり、ばね定数に相当している。図は、ベッド形フライス盤の構造をモデル化して示したものだ。この機械の静剛性は、加工力Fが作用したときの主軸頭︱テーブル間の相対変位Xを用いて、図中の式のように表すことができる。ここでは、先の静剛性の逆数(フレキシビリティ)を評価値として用いており、この値が小さいほど、静剛性が高いことを意味している。

図に示すように、このフライス盤は主軸頭、コラム、ベッド、テーブルから構成され、各種機能を持った結合部で結合されている。これら各構成要素は、結合部も含めて弾性体なので、図に示すようにばね特性fiを示す。そして、加工力をうけるとその力は、図中の力の流れに沿って各構造要素に伝達される。

この図から分るように、このフライス盤構造は、各構造要素が直列結合された構造体と考えることができる。したがって、構造全体の静剛性は、その逆数であるフレキシビリティX/Fを評価値として用いると、図中の式のように表せる。工作機械の構成要素は前述のように直列結合されているので、構造全体のX/Fは、各構造要素のフレキシビリティfiの総和になる。

この式は、非常に重要なことを物語っている。つまり、構造要素の中にフレキシビリティが大きい(剛性が小さい)構造要素があると、この構造全体のフレキシビリティは、その構造要素のフレキシビリティより小さくできないことを示唆している。例えば、結合部の剛性が小さく、フレキシビリティf3が非常に大きいと、例えばコラムの剛性を懸命に高め、f2をいくら小さくしても、全体のフレキシビリティは、f3よりも必ず大きくなってしまうのだ。つまり、全体の剛性を高めるためには、先ずは、結合部のように構造体の中で剛性が最も低い要素の剛性を高めることが効果的であることが分かる。

この基本的な原理を理解していれば、工具、工作物の保持具であるツーリングシステムの剛性を高めることの意義を理解することができる。比較的最近の事例では、ツールホルダのテーパシャンクとして2面拘束形のものが使われるようになり、飛躍的に剛性・精度が高まり、注目を集めた。このことは、これまでのテーパシャンクの結合部剛性が如何に低かったかを意味していると言える。エンドミルなどの回転切削工具についても同様のことが言え、工作機械構造要素と比較しても、見ただけでも圧倒的に剛性が低いことが分る。したがって、これらの剛性を高めることは、全体の剛性向上に大きく貢献できることになる。

一方、工作機械メーカでは、全社一丸で良い製品を作ろうと頑張っている。それは、工作機械の製造プロセスも直列的であり、一つでも手を抜くプロセスがあれば、良い製品ができないからである。工作機械構造も、それを作り出す製造プロセスも、直列結合でできていることを認識することが、より良い工作機械を生み出すポイントと言える。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。