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識者の目

真潮流〜9

工作機械性能向上の原点は、運動特性
 ー 静・動・熱特性で、その向上サイクルの強化を

日本工業大学工業技術博物館に勤務することになり、工作機械の基本構造がどのように進化してきたかについて考えるようなった。ある日、旋盤の原形と言われている紀元前3世紀頃のエジプト古墳で見つかったレリーフの線画(図1)を見て、その原点を見たように感じた。

【図1】工作機械の運動特性の決定因子

図では、1人が紐を工作物に巻き付け回転させ、もう1人が工具を持って工作物を円筒状に加工している。機械構造としては、工作機械の本体に当たるフレームを構成し、工作物の支持部を上下に設け、それを基準に工作物を回転できるようにしている。そして、工作物に巻き付けた紐の両端を往復運動させることにより、回転運動を与えている。これでは、工作物は正、逆転してしまうことになるが、正転するときのみに加工する方式を採用しており、現在のように連続した一方向回転下での加工は実現できていない。今では当たり前の一方向連続回転での加工が可能になるのは1400年頃である。

一方、加工は工具を人間が手で持って、工作物に押し当てて行っている。人間の力だけでは一定の切込み位置を保持できないので、機械本体にも押し当て、基準として使っている。さらには、円筒状にするために、やはり機械本体に押し当てながら工具を軸方向に移動させて、機械本体を運動基準にしていたことが窺がわれる。

以上のように、旋盤としての機能実現のために、先ずは工作物の回転運動のための基準と、そして工具の位置決めと送り運動のための基準づくりから始めていることが分かる。このようにして、ある程度の形状が加工できるようになると、その精度をより高めたくなる。そのためには構造の弱さが感じられ、力に対する耐性である静剛性を高めるために静特性の改善がなされる。すると、表面粗さなどの品位も高めたくなり、これが良くならない要因は機械の振動であることに気が付き、振動対策が行われ、動特性が改善される。さらには、寸法などの精度のバラつきを小さくしたくなる。観察してみると加工点をはじめ運動各部が熱を持っていることがわかり、冷却するなどの熱特性の改善がなされる。このようにして、これら3つの特性の改善が進むと、改めて運動特性の不十分さに気が付く。このような特性向上のサイクルを繰り返しながら、工作機械の性能が高められてきたのではと推測される。

しかしながら、これまでの工作機械の研究・教育を振り返ってみると、静・動・熱特性主体で行われてきた。一方、運動特性としては、その評価法としての研究が多い。教科書でも付録的に運動特性の評価法として、工作機械の精度検査法の紹介がある程度である。この要因は運動する部分が主軸やテーブルといった個別の要素で、それらの回転精度、案内精度の向上技術として個別的に扱われ、運動特性としては静・動・熱特性ほど体系的に論じられてこなかったことが挙げられる。私の著書である「初歩から学ぶ工作機械」の執筆時には、運動特性の体系化の必要性を既に感じていたので、3特性に加えて運動特性も取り上げた。しかしながら上述の意識はまだ無く、従来から重要視されていた静・動・熱を先ず解説し、最後に運動特性について記述している。

運動特性が良くなければ、他の3特性をいくら向上させてもその効果は余り無い。先ずは運動特性を高め、次に静・動・熱特性を高めるという性能向上サイクルにより、基本となる大事な運動基準が変化せず、より高精度で安定した工作機械が実現できる。工作機械技術発展の歴史を紐解き、その意味を考えることの重要性を、改めて感じた次第である。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。