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真潮流〜10

無人化・省人化から「残す化」へ
 ー 製造現場の持続的な成長を可能とする工作機械が必要

最近は、製造現場の無人化・省力化への要求が高まっている。それらに対応するため、ロボットや無人搬送車など自動化装置・機器が導入され、工作機械の72時間無人自動運転も可能になってきている。さらには、IoT、AI技術を駆使した生産システムや設備機械の見える化が進み、機械設備の予知保全なども可能になりつつあり、高度な自動化が進んでいる。これらに伴って製造現場のスキルレス化も進み、工作機械のオペレータの存在感は、次第に薄くなってきている。

この方向は、正しいのであろうか。このように高度自動化され、無人化された後の生産現場はどのような世界になるのであろうか。現場作業の単なる高度自動化は、オペレータの思考を止め、その成長を妨げてしまうことが危惧される。無人化後、生産現場の更なる生産性向上のための改善策の検討は誰が行うのであろうか。現場で自ら加工現象を見ながら加工条件などを変更したり、より良い加工法を考えたりする人間が存在しない環境下では、生産性をさらに向上させようとする発想すら起きなくなるものと思われる。どんなに高度な自動化が進んでも、更に高度な生産技術の開発を行うための人材が必要だ。

現在、IoT化とともに、ものづくりのデジタル化が進み、製造現場が見える化され、工作機械の稼働状態がより正確に把握できるようになってきている。この環境を無人化のために使うのではなく、工作機械のオペレータが現場で起きている各種現象をより深く理解し、それらを活用しやすくするために使うべきだ。これにより、現場における各種課題への対応策を考える動機や、多くのヒントが生まれるものと思われる。

自分が設定した加工条件により、どのような加工現象が生じ、機械がどの様な振る舞いをしているのかを目に見えるようにオペレータに伝えることが重要である。製造現場では殆どの工作機械がNC化されており、カバーで覆われ、加工点を見ることができず、加工現象を人間の感覚により把握することが困難になっている。このため、製造現場のレベルが次第に低下していることが指摘されている。これを防止し、現場の生産技術力を高めるためには、工作機械の稼働状態や加工プロセスの見える化が必要と言える。

このような環境づくりのためには、工作機械メーカは、現場のオペレータや生産技術者に多くの気付きを与え、自ら創造的な生産活動を行いたくなるような工作機械を開発していくことが必要だ。そのためには、IoT、デジタル化技術、AIなどを駆使し、上述のような見える化の仕組みを工作機械に搭載し、現場技術者を成長させながら、生産性も向上させることが望ましい。

一方、自社の製造現場に適した見える化のためには、自社の製造現場を知り尽くした人間がいて始めて、どこをどのように見える化すればよいか、そのポイントも的確に判断できるものと思われる。したがって今後は、次世代の製造現場のさらなる発展に貢献できる人間を如何に育成しつづけていくかがポイントとなる。そのためには無人化、省人化というよりは、現場の持続的な成長を可能にする貴重な人材を育成し残していく必要がある。

そのためには、見える化を強力に押し進めることにより、単に無人化、省力化するのではなく、残すべき人材を育成するとともに、人材だけではなく、貴重な技術、技能、ものを、如何に次世代に残していくかが重要であると言え、今後は、「残す化」が大きな課題になりそうだ。

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。