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識者の目

真潮流〜11

製造現場力を、より良い「ものづくり」の原動力に
 ー「モノづくり」から「ものづくり」への意識改革が必要

最近は、中国が世界の工場と呼ばれ、さらには、タイ、ベトナムが注目されるようになり、「ものづくり立国日本」、「技術立国日本」という言葉が、過去のもののように感じられる。よく考えれば、単に人件費が掛からず、安く製品ができる国々へと製造基地がシフトしているだけとも言えるが、これにより、日本の製造業がこのまま弱体化し続けてしまうのも困る。

この弱体化の要因を考えてみると、ものづくりにおいて、特に製造プロセスがクローズアップされていることにあると思われる。実際には、ある製品を生み出すに当たっては、その企画・構想から、研究開発、設計、製造、評価、販売、サービス、廃棄といった、製品のライフサイクルに関わる多くのプロセスを経ており、これら全てを考慮に入れた製品づくりが必要となっている。そこで、日本学術会議では、ものを生み出すのに必要なプロセスすべてを包含した生産活動を「ものづくり」として改めて定義している(1)。

しかしながら、現実には、「ものづくり」というべきところを「モノづくり」という用語が使われ、上述のように製造プロセスのみが意識されている傾向がある。今後は上述の全プロセスを含めた総合的コストパフォーマンスにより、その製品価値を評価すべきである。この総コストパフォーマンスを高めて、革新的な製品を革新的な高効率で生み出そうとするのが、世界で進められている第4次産業革命の目標であることを認識する必要がある。原子力発電システムが製品として受け入れられないのは、これらプロセスの中のサービス・廃棄プロセスに問題が有り、大変なコストが掛かっているからだ。

製造プロセスだけを切り離し、海外に持って行けば、設計へのフィードバックが困難になり、製造現場だけで処理されるようになっていく。したがって、設計部門の成長は期待できない。欧米では、製造現場の見える化を進め、加工品質の分析結果から、設計図面品質の評価を行う試みも始まっている。一方、日本では、設計、製造部門が社内にあっても、その壁が高いと言われている。製造現場のレベルが高く、図面が不十分でも、製造現場で何とか対応ができてしまうことから、製造から設計部門へのフィードバックがあまりなされないのだ。このため、製造現場の匠が退職すると、ものがまともにできなくなるといった問題が生じることになる。

このようなことを防ぐためには、製造現場の問題は、製造現場だけで解決しようとしないで、設計部門と連携して、必要であれば、図面の品質から見直すくらいの体制が必要だ。また、下請けに依頼する場合でも、丸投げすることなく、自社の設計・製造担当者と依頼先の製造担当者とのコミュニケーションをしっかり取り、依頼先の製造現場での問題も見える化し、設計へフィードバックする必要がある。このようにして、最終的に解決できない製造関連の課題を工作機械メーカと連携して解決するような仕組みが大事だ。

工作機械メーカは、顧客からの厳しい要求があって、はじめて成長する。設計からの的確な厳しい要求が製造現場に出され、それを実現するための生産技術を開発していく。そのプロセスで、設計の品質も見直し、新たな厳しい要求を工作機械メーカに出せる現場が理想だ。製造現場力をより良い「ものづくり」の原動力としたいものだ。このような、設計と製造現場の連携と同様に各プロセス間の連携をしっかり行える体制を整えることが、これからのものづくりには必要だ。

※注(1)日本学術会議 機械工学委員会 生産科学分科会:報告 21世紀ものづくり科学の在り方について(2008)p3

日本工業大学工業技術博物館 館長 清水 伸二
1948年生まれ、埼玉県出身。上智大学大学院理工学研究科修士課程修了後、大隈鐵工所(現オークマ)に入社し、研削盤の設計部門に従事。1978年に上智大学博士課程に進み、1994年から同大学教授。工作機械の構造や結合部の設計技術の研究に従事し、2014年に定年退職し、名誉教授となる。同年、コンサル事務所MAMTECを立ち上げるとともに、2019年4月には日本工業大学工業技術博物館館長に就任した。趣味は写真撮影やカラオケなど。