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識者の目

製造業DX実現のカギ〜最終回

製造業DXで「誇れるニッポン」へ

日本はGDP世界3位を誇る経済大国である。そして、食品から日用品、自動車から人工衛星まで、自国で製造設備から作ることができる数少ない国だ。さらに近い将来、食糧生産も工場で行われる世界がくると言われている。食糧不足が懸念される昨今、製造業、工場に強い日本は本来明るい未来が待っているはずである。

日本の農産物も、海外では富裕層 向けの高級品として、とんでもなく高い値段で取引されている。詳しい方に聞いた話では、農産物に関しては「日本産」というブランドよりも、「日本人が育てている」ということによる価値が認められているそうだ。

その証拠に、現地で日本人が育てた農産物は、日本産のものと同等の評価を得ることが珍しくないという。これは、日本文化が育んだ、気づく力、空気を読む力、すり合わせの力の賜物だと感じている。農業を学んだ、品種を開発したというだけでは、他国には決してすぐにまねができないすばらしい競争力だと感じている。

一方で私は張授業などを通じて学生の方と会話をすることが多いが、日本をそのような「誇るべき国」とは感じていない方が多い。メディアでは新興国企業に大手企業が買収されるニュースが流れ、少子高齢化ばかりがクローズアップされる。

日用品や家電、スマートフォンやクラウドサービスなど身の回りのものは、新興国とGAFAが圧倒的な存在感を示している。残念ながらこれは事実であり、失われた30年と言いわれた時代にこれらは急速に進んでしまった。結果からいくと、私たちの世代がぼんやりしていたからそうなってしまったと言いわれても何も言えない。

だが私はあきらめてはいない。日本の強みを活かして製造業DXを実現し、再び世界で脚光を浴びる存在になることができると信じている。

第四次産業革命と言われて久しいが、本連載で解説させていただいた通り、実現のためには「デジタル」と「フィジカル」両方のノウハウが必要である。そして先進国を含めた各国はこの第四次産業革命の覇権を握るため、産官学を挙げてしのぎを削っている。そして私はこの「デジタル」と「フィジカル」の融合が必要な競争領域であるからこそ、日本の強みが活かせると考えている。

■フィジカルの強さを活かす

例えばアメリカはご存じの通り、デジタルの世界においても世界的に圧倒的な競争力を持っている。、対して日本はロボットや製造装置といったフィジカルの世界で強みを持っている。実はこの強みが製造業DXの実現のポイント、つまり第四次産業革命成功の鍵となると確信している。

フィジカルの世界では、「すり合わせ」「きめ細やかな改善」が必要になる。これは実際に現場を持っていたり、経験があったりするだけではなく、「すり合わせる文化」「きめ細やかな文化」が社会に浸透していないとなかなかできない。日本で作っている製品を、労働力が安いからといってそのまま海外でうまく生産ができないのもこの部分が大きいといわれている。

また、日本はIT分野で立ち遅れているという論調も見られるが、私はそうは思っていない。もちろんGAFAのようなグローバルで圧倒的なシェアを誇るIT企業は少ないが、個々の技術が決して劣っているわけではない、また、今後製造業DX実現に必須となる「データ」、特に製造業におけるその蓄積は恐らく世界的にも突出している、まだ活用できていないデータが各企業に膨大に存在するのだ。

プラットフォームは海外製だとしても、このデータ活用とフィジカルの強さで日本は第四次産業革命を世界に先駆けて実現できるのではないかと考えている。そして、製品ではなく「スマートファクトリー」そのものを輸出することで、新興国をはじめとした国際貢献と日本の経済成長を両立することができると考えている。

そのためには、今の現役世代が積極的に製造業DX実現にチャレンジし、誇れる日本を次の世代に引き継げるようにするべきだ。失われた30年とはもう言わせたくない。読者の皆様にも力を貸していただきたい。

(2023年5月25日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。