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識者の目

製造業DX実現のカギ~第34回

製造業DXを担う人材

ここでは、製造業DXを推進する人材「DXエンジニア」のことについて触れたい。実は大前提として、「DXエンジニア」は人材が極端に不足している。
 
今まで述べた通り、スマートファクトリー実現のためにはステップごとに多くの知見が必要となる。プランニングの段階では「財務の知見」と「設備の知見」が必要で、シミュレーションの段階では「ITの知見」と「設備の知見」が必要である。

リアルファクトリー構築には「ロボット」「機械」「制御」など、自動制御の領域に加え、システムやネットワーク、セキュリティなどの知見を持った人材も必要だ。例えば「ロボット」に命を吹き込む仕事と言われる「ロボットシステムインテグレータ」は製造ラインの自動化にとって欠かせない存在であるが、業界団体の会員企業は20234月現在で218社、その多くは中小企業である。「人手不足を解消するための人」が不足しているという、笑えない状況にある。

製造業が基幹産業である日本は、元々「自動化」が得意である。ロボットメーカーやFA機器メーカーもグローバルで活躍している企業が複数存在し、工作機や半導体製造装置といった高度な自動化設備もまだまだ高いシェアを誇っている。

これは製造業DXを推進するにあたり、非常に高いアドバンテージだ。この高いアドバンテージを活かし、DXを推進する「DXエンジニア」を産官学連携で育成することが、人材不足解消、製造業DX推進の鍵となる。もちろん、国内の理系学生にDXエンジニアの魅力を理解してもらい、優秀な学生に目指してもらうのもよい。さらに、経済成長が著しいインドシナ半島には約3億人が住んでおり、平均年齢も非常に若く、ミャンマーでは約28歳ともいわれている(日本は約47歳)。日本で技術を学びたいという優秀な学生も多数いる。

チームクロスFAでも、タイ・ベトナム・ミャンマーを中心にDXエンジニアの卵を採用し、すでに戦力になりつつある。彼らは非常にハングリー精神にあふれていて、既存社員の良い刺激にもなっている。例えばこのような国際交流を通じ、DXエンジニアを育成することで、日本はもちろん、新興国の経済成長にも寄与することができるのではないだろうか。

■1億円プレイヤーも夢ではない

DXエンジニアの中でもシミュレーションツールを使いこなし、「デジタルファクトリー」を構築できるエンジニアを、私は「デジタルファクトリーエンジニア」と呼んでいる。現在はシミュレーションソフトを使いこなすエンジニア自体の希少性が非常に高い。デジタルファクトリーエンジニアはさらに、「機械設計」「制御設計」の知識も兼ね備え、仮想空間に工場を作り、目的に応じた最適解を導くことができるエンジニアである。

例えば、ある工場をデジタル化し、シミュレーションモデルを作るとする。前述の「投入計画の最適化」を行い、スループットを向上するだけでも、大きな設備改善なしに生産性の向上ができる。仮に生産額換算で年間20億円の工場の場合、ほんの5%改善できただけでも、年間1億円もの利益を企業にもたらす。また、工場新設の際に設備計画を最適化すれば、本来なら100億円の計画だった設備投資を80億円におさえることもできるであろう。

設備が稼働したあとも、改善点を見つけだし、その改善点を仮想空間上でテストし、費用対効果を検証したうえで実行することもできる。しかもデジタル上で全てを行うため、スピードも速く、思い切ったアイデアを検証することも簡単だ。

また、最近盛んに語られるT型人材(特定分野のスペシャリストでもあり、幅広い知識も有する人材)、H型人材(特定分野のスペシャリストでもあり、他人の専門性を横軸でつなげられる人材)も非常に価値が高い。

このようなデジタルファクトリーエンジニアであれば、20年、30年といった勤続年数による創出利益の積み上げを数十億、数百億とすることも可能であろう。プロスポーツ選手のように年収1億円プレイヤーが生まれることも、決して夢ではないと考えている。

2023515日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。