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識者の目

製造業DX実現のカギ~第34回

デジタル化がSDGS実現を加速する

適切な費用対効果を検証したうえで、製造業DXを推進することは、SDGSの実現にもつながる。

わかりやすい事例としては、製造現場のスループット向上で、材料、エネルギーのロスは激減できる。特に日本では、最終エネルギー消費の約46%が産業部門で消費されている。実は家庭部門におけるエネルギー消費の割合はわずか約14%に過ぎない。いくら家電が省エネになっても、産業部門のエネルギー効率が悪いままであれば国全体のエネルギー効率はさほど改善しないのだ。

最終エネルギー消費と実質GDPの推移(出所=資源エネルギー庁「エネルギー需給の概要」)

産業分野のエネルギー効率は、新興国にとっても非常に重要である。今後、経済発展にあわせて国民の生活水準は向上する。工業化も進み、エネルギー需要もどんどん増える。

製造業DXは、その様な新興国の工業化に対しても、最適なエネルギー活用や環境に優しい製品開発を促し、持続的な経済成長を技術でサポートできる。また、市場ニーズに合った量とタイミングで適切な製品が出荷できるため、在庫ロスや物流のロスもなくなる。これは、年を追うごとに増えている運輸部門でのエネルギー消費削減にもつながる。

エネルギー最適化については、単純な省エネだけではなく、再生可能エネルギーの活用を通じたCO2排出量削減にも寄与する。工場の屋根に太陽光パネルを設置して発電するだけではなく、蓄電池を併用した工場の電力コントロール最適化で、電力消費をピークカットし、電力コストを削減することにもつながる。

製造工程のデータと紐づけることで、製品1つあたりのコストだけではなく電力使用量や、CO2排出量なども見える化できる。各地で再生可能エネルギー取引の実証実験もスタートしているため、購入する電力も再生可能エネルギーを選択しやすくなる。近い将来CO2排出ゼロの工場もどんどん増えるはずである。

世界全体を俯瞰的にみると、人手不足よりも「食糧問題」が課題となっている地域も多い。需要にあわせた過不足無い生産を実現しながら、食品工場の生産性自体が向上すれば、昨今問題になっている「フードロス」の削減にもつなげることも可能であろう。

製造業DXの技術は植物工場にも適用できる。既にモヤシや一部のキノコ類は工場での生産が主流であり、レタスなどの葉物類も採算ベースに乗りつつある。データを活用し、最適な栽培方法を蓄積することで、生産効率はどんどん向上する。

こうしたノウハウは食料不足が深刻化している国に、工場ごと輸出することもできる。無農薬でできた野菜は安心・安全という付加価値も付くため、健康寿命を延ばし、医療費の抑制に貢献できるかもしれない。

■持続可能なモノづくりへ

製造業DXにより実現できることは、まだまだある。後述の働き方改革の実現によって「働きがい」と「経済成長」の両立にもつながる。製品ライフサイクル管理(PLM)の確立による「つくる責任」と「つかう責任」を確立し、持続可能な消費と生産のパターンを確保することにもつながる。

製造業DXによるSDGS実現は企業に利益をもたらすという経済合理性も伴っており、さらにはESG投資も注目を集めてきているため、実際の株価にも企業活動が如実に反映されることから企業のインセンティブになりつつある。従来の経営指標で見た場合でも、製造業DXは大きくプラスの影響を及ぼす。

ネイティブ・アメリカンには以下の諺がある。「地球はあなたの両親からあなたへと与えられたものではない。あなたの子供があなたに貸し出したものだ。人は祖先から地球を継承するのではない。子供たちから借りているのだ」。

自省を込めてではあるが、18世紀半ばに起こった産業革命以降、もしその時々の現役世代がこの意識を持って生活できていれば、と感じるときがある。現在の地球温暖化、環境汚染など、実際に起こってしまっていることは紛れもない事実であり、これは私たちや私たちの先祖が生活を営んできた結果である。経済は成長し、先進国を中心に人々の生活は豊かになった。私はこれを全て否定するつもりは無いが、このままで良いとも思っていない。

 私は次世代を担う子供たちから借りている地球を、できる限り元のまま引き継ぎたい。むしろ、私が引き継いだ時よりもきれいにするか、「きれいにできる仕組み」を作ってから引継ぎたいと考えている。そのためには、持続可能な消費と生産のパターンを確立する必要がある。これは誰かがやってくれるはず、と傍観していては実現できない。

ひとりひとりの決断や行動が、SDGSの実現に大きな影響を及ぼす。特に製造業の経営に携わる方々は、さらに多くの関係者に影響を与える点において、より未来に対しての責任が重いとも考えることができる。次世代を担う子供たちに、胸を張ってきれいな地球を還したい。ぜひSDGS実現のためにも皆様の力を貸していただきたい。

2023425日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。