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識者の目

製造業DX実現のカギ~第33回

DXによる投資対効果の可視化

製造業DXのお話をすると、「投資対効果」の壁にあたり、立ち止まっている企業が多い。「DXを実現したい」「このままだと、市場にあわせてビジネスが縮小してしまう」といった「進めないといけない」「進めたほうが良い」という認識はあるものの、「投資対効果」が数字に出にくいため、現場も稟議書が書けず、経営層も判断がつかないのだ。

チームクロスFAの調べでは、「投資対効果が算出できないからDXが進められない」という企業が78%も存在する。

しかし、同じ投資でも自動組立機、自動搬送機の導入といった、部分的な自動化であれば、検証要素が限定的であるため、効果が出る要素とその量を容易に特定できる。例えば「省人化」「工数削減」「不良率低減」といった具合だ。

対して、DXの実現は効果が広範囲に及ぶ。効果がある要素を特定するのも難しく、さらに定量化も難易度が高い。見えない効果としては、早期販売機会の獲得、需要変動対応、顧客満足度向上といったものが挙げられる。後述する社員の「わくわく」「働きやすさ」や、それによる採用・教育費用の削減、生産性の向上なども入ってくるかもしれない。

そのため、DXの投資対効果においては、効果の算出方法を根本的に見直しする必要があるのだ。

投資対効果の代表的な算出方法には「回収期間法」「正味現在価値法(NPV法)」「投資収益率法」など様々な方法があり、それぞれ一長一短があるため、別表にまとめた。

このように、既存の投資対効果の算出方法だけでは「個別案件ごとに分けて効果が審査されてしまう」「税務と設備の専門家連携が難しい」「作業負荷、企業価値など定性的な要素の数値化が難しい」など、DXの効果をまとめにくいという課題がある。さらに、未来は不確定要素が多く、過去のケースや割引率の妥当性が厳格に検証できないうえ、市場環境や財務状況が変化する可能性を安全側に考慮してしまうため、必要以上に投資に慎重になってしまいがちだ。

投資対効果を算出するためには、従来の投資対効果の算出方法に加え「今まで見落とされてきた見えない価値」をしっかり評価することが求められる。「製造コスト」だけではなく、「教育コスト」「保守コスト」「管理コスト」などその項目は多岐にわたるため、それらも充分加味して計画立案するのだ。そのためには製造業の本質である「ものづくり」が実際に行われる製造現場のデジタル化が必要で、これをなくしてものづくり企業のDX実現はありえない。

■設備と財務の知見が必要

そのため、多くの投資がある中で、最も重視すべきは設備の投資対効果だと考えている。設備投資で改善する経営指標を費用対効果の指標の中心に据え、企業力や企業価値の向上を可視化するのである。代表的な指標として「ROICReturn on Invested Capital:投下資本利益率)」が挙げられる。これは経営者視点で見た指標で本業に絞った収益性を見ることができる。また、「ROAReturn on Assets:総資産利益率)」も投資家視点で見た指標であり、企業全体の収益性がわかる。

つまり「ROIC」で企業力、「ROA」で企業価値を見るのがよいと言われている。しかし、ROICは販売管理費なども加味されるため、純粋な「設備投資」による収益性とは言えない。このため、固定資産回転率の中で「有形固定資産回転率(工場・機械・設備など)」と、「無形固定資産回転率(ソフト・IT)」を分けて分析するのだ。

これらの数値は上場企業であれば有価証券報告書などで開示されているため、ベンチマークとなる同業他社を参考に分析や課題を特定することに役立つ。例えば、有形固定資産回転率が低く、無形固定資産回転率が高い企業は設備稼働率の向上が課題と推測でき、逆のパターンでは情報による省力化・合理化に課題があると仮説を立てることができる。これにより、設備の純粋な活用率を把握し、改善度を同業他社との比較によって測定できる。

いずれの分析をするとしても、設備と財務両方の知見がある人材が重要で、社内にそのような人材がいない場合は「設備」に強いコンサルティング能力を有するパートナーと連携するのも良いだろう。

手前味噌ではあるが、チームクロスFAでは、このようなコンサルティングからプランの策定、実際の設備実装までを、全体最適を加味してワンストップで提供できる体制が整っていると自負している。

2023410日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。