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製造業DX実現のカギ~第10回

デジタルファクトリー構築のステップ

デジタルファクトリー構築は、大きく分けると3つのステップから構成される。「プランニング」「シミュレーション」「リアルファクトリー構築」である。ここでは、デジタルファクトリー構築プロジェクトの成否を決めると言っても過言ではない「プランニング」について説明する。

工場DX化にはマネジメント能力も求められる

「プランニング」は「生産戦略グランドデザイン」、「プロジェクトマネジメント(計画PM)」、「工場グランドデザイン」、「自動化、ロボット化構想」、「デジタル化構想」、「物流、作業構想」といった要素から構成される。

最初に実行すべきなのは「生産戦略」のグランドデザインである。企業によっては、「生産戦略」に限らず、大局的な視点から、企業全体のグランドデザインを既に策定されているところもあるだろうが、実は多くの企業では「ビジョン」「ミッション」などは掲げているが、「生産戦略グランドデザイン」までは描けていない。

将来自社はどの部分を強みとして勝負するのか、そのためにはどんな製品を開発し、どんなコンセプトで生産するのかなどを言語化していくのだ。手順としては、経営層や現場のヒアリング、問題整理、課題抽出などを行い、コンセプトを策定していくケースが多い。これにより、工場の達成すべき目標と計画を明示し、これからはじまるデジタルファクトリー構築プロジェクトの芯を作りこむのだ。

このことで、プロジェクトが進む際、判断に迷うことが激減し、手戻りも発生しにくくなる。生産戦略のグランドデザインが策定されたら、それらをロードマップにまで落とし込んでいく。いつ、どの状態にまでもっていくのかをできるだけ数字に落とし込み、関係者が同じ認識でとらえられるように、図や表にまで落とし込むのだ。

プロジェクトマネジメントとは、その作成された生産戦略グランドデザインとロードマップが現実となるように、プロジェクトメンバーを選定し、各活動の計画を立案、日程表などのスケジュールに落とし込み、進捗管理を含めたまさにマネジメントを行うことである(PMとも略される)。

管理能力があれば務まると思われがちであるが、経営層、プロジェクトリーダー、現場担当者などプロジェクト推進を行う企業社員はもちろん、工場建設が伴う場合は建設会社、設備導入が伴う場合は設備エンジニアリング会社、システム導入が伴う場合はシステムベンダーなど、多くの担当者の利害関係を調整しながら進める能力が必要なため、コミュニケーション能力とそれら関係者と渡り合うだけの知見が必要な業務となる。

■事前のグランドデザインが重要

「工場グランドデザイン」「自動化、ロボット化構想」「デジタル化構想」「物流、作業構想」では、生産グランドデザイン、ロードマップに沿って、それぞれの領域についてのコンセプトや方針を決め、さらに詳細な計画に落とし込んでいく。

「工場グランドデザイン」であれば、工場全体で何を優先すべきかの方針を決め、それに沿った計画を生産現場に落とし込んでいく。例えば「多品種少量生産に対応させる」という方針が決定されたとすると、できるだけコンベアを少なくし、AGVなどを活用した柔軟な搬送システムを構築し、それを加味した加工機や組み立て機のレイアウトを行うなどだ。

 さらに、「自動化、ロボット化構想」により、どこにどんな自動機やロボットを使って自動化を進めていくかを決め、「デジタル化構想」により、ERPMESPLMなどのシステム構成や、PLCや各種制御機器、センサなどの現場側からのデータ収集方法など、ネットワーク構築、システム構築に関係する部分の仕様を策定していく。

「物流、作業構想」においては、入庫から出荷までを通じて物流工程に必要な要素を検討し、物流経路や在庫数及び配置などの最適化を実現する計画を練り上げる。また、ここに明記した各種構想・グランドデザイン以外にも、「エネルギーマネジメント」「人員配置計画」など、工場を作り上げるにあたり、検討すべき事項は多々存在し生産戦略グランドデザインに倣って計画を練っていく必要がある。

従来型の工場設立の場合、ここまでする必要がなかった。製造品目が決まると、ある程度それが実現できる製造装置及び製造装置メーカーが決まり、あとはそれをコンベアで接続したり、人による搬送を見込んでおいたりすればよいケースが多かった。

しかし、少量多品種化が進んだ結果、工程も複雑になり、検討するべき事項が増えた。さらに、「情報」の価値が高まり、現場のデータ管理の重要性が増した結果、このようなグランドデザイン、構想設計無しでは目的に合致する工場設立が叶わなくなってきているというのが現実である。

2022425日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。