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識者の目

製造業DX実現のカギ~第9回

デジタル化による「攻め」の工場経営

製品にもよるがBOM(部品表)、BOP(工程表)などのデータがデジタル化され、デジタルファクトリーと連動すると、もっと革新的なメリットが享受できる。製品設計時点で「製造しやすい設計」や「工程内不良が発生しにくい設計」ができるのだ。

製造工程の取捨選択もデジタル化が容易にする

例えば、家電製品の設計をイメージしていただきたい。設計者は市場のニーズや競合他社の動向を踏まえて、機能的に優れた製品を設計する。もちろん部品などのコストや、デザイン、放熱や耐衝撃性能なども加味して設計を行う。

そしてここでも三次元CADや各種シミュレーションツールが活用され、従来とは比較にならないほど効率的に高機能な製品が設計できる。その設計した製品のシミュレーションモデル(正確には部品レベルまで落とし込んだモデルと、BOPデータ)を、さらにデジタルファクトリーと連動させるのだ。

従来であれば、設計者は部品などの原価と機能を最優先するため、もしかすると「製造しやすい設計」「製造設備的にコストが安い設計」にまではあまり考えが及んでいないかもしれない。

ここで「樹脂部品同士の組立」というほんのひとつの工程を題材に「製造しやすい設計」を考えてみる。組立の方法には様々な方法があり、ねじ止め、接着、溶着、勘合など様々なものがあり、それぞれにメリット、デメリットがある。

例えばねじ止めにすると、製品に何か不具合があった時に開けて再度組み立てることが容易だが、ねじの分、部品点数が多くなると共に、ねじ止めという工程が増える。

ねじ止めを自動化するためには、一般的にはパーツフィーダと呼ばれるねじを整列して搬送する機器とそれをまっすぐに並べるリニアフィーダ、ねじをピックアップしてドライバに供給する機構、製品を固定する治具、ねじが正常に留められたかを確認するセンサなど、多くの機器が必要になり、一般的には多くのスペースと数百万というコストがかかることになる。

これが、接着による組み立てだと、極めてシンプルな機構で構成できて、製造装置としては安価に対応できる(ただし、組み立て後に開けて、再度組み立てることはできない)。どちらが良いということは製品設計の内容によってケースバイケースであることは承知しているが、デジタルファクトリーと設計データの連携ができれば、製品設計段階でメリットデメリットが明示され、どちらを選択すべきかを数値で判断することができる。

■設備導入前の検証が重要

このようにシミュレーションにより、「ねじ止めにしたら数百万円、設備コストがあがる」と明確になれば、設計者が製品設計段階で製造コストを考慮するようになり、全体最適を考えた製品設計が行われると考えられる。コストだけではなく、実際に製品設計の途中で組立をシミュレーションすることで、部品同士の干渉や組み立てにくい部分などを事前に理解できるため、設計を早い段階で修正し、「組立しやすい」製品設計が行われるようになる。「組立しやすい」「製造しやすい」ということは、それだけ工程内不良がでにくくなることにもつながり、トータルコストの削減や品質向上にも寄与する。

そして、デジタルファクトリーの真価は、これらのPDCAがデジタル上で高速に行える点にある。製品設計が完了した段階で「ねじ止めだとコストが上がるので接着に変えてもらえませんか?」と言われても、強度や重量などの製品仕様や、組み立て順序など広範囲に影響が及ぶため、なかなか簡単には変更できない。

それが、設計途中のデジタルデータであれば比較的簡単に変更できる。工場側も同様である。リアルな設備を作った後に「製品の仕様を変えたい」となっても、そうは簡単にはできない。設備導入前にデジタルファクトリーで徹底的にシミュレーションすることで、費用対効果を充分に検証した結果をもとに、設備導入に踏み切ることができるのだ。

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。