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製造業DX実現のカギ~第14回

「無いから作った」DXデモライン

物流システムの「要件定義」「実装」は、材料や部品の入荷から、製品の出荷までを通じて物流工程に必要な要素を洗い出して進めていく。最新の物流管理手法の検討や、自動倉庫、AGV(無人搬送車)、物流ロボット、DPS(デジタルピッキングシステム)などを組み合わせて、全体最適を考慮する必要がある。

チームクロスFAで製作した「デジタル型ロボットジョブショップ」

物流システムにおいても、シミュレーションは重要な要素であり、徹底的にシミュレーションを行うと共に、稼働後は刻々と変化する工場内外のデータをデジタル化し、活用できるシステム構想が求められる。物流システム検討においては、単純な搬送物の量や内容だけではなく、そのロケーション、置くスペース、移動タイミング、移動方法、移動ルート、人や設備の動きなど多くの事を検討する必要があり、デジタル化の要件定義、実装と同様、多くの経験が必要となる。

近年では物流工程で活用される機器やデバイスも高度化してきており、今でも最も多く使われている「バーコード印字」と「読み取り」を例にとっても、従来はラベルに縦縞模様と数字で表現されるものから、二次元コードが入ったラベル、二次元コードを製品に直接印字するものなど、どんどん進化している。RFIDタグなどの非接触タグの普及も進んできており、データを読み書きできるという特徴から、工程の途中結果を書き込んだりするなどして、トレーサビリティの実現にも寄与している。

ここで上げたデジタル化はごく一例で、「設備メンテナンス」「人材配置」「エネルギーマネジメント」など多くの検討項目が必要になり、それぞれ構想をかため、システムや仕組みに実装していく。これらの実装プロジェクトをマネジメントするという役割も、プロジェクト成功のためには重要となってくる。

それぞれの構想単体で検証した場合はしっかりしたものに見えても、工場全体として、各種システムが連動しないと、各システムは絵にかいた餅になってしまう。プロジェクトマネージャーは、それらの連携が実際にうまくできるかを内容の検証だけではなく、スケジュール設定、遅れてしまった場合のリカバリー策検討、各責任者、担当者の連携などを考慮して、プロジェクト全体を成功に導くという重要な役割を担う。

■自立制御を実現したラインを構築

私は「デジタルファクトリー」を「デジタルマップとリアルタイムデータ、そしてデータのフィードバックが可能な生産設備や人が連携し、自律制御を実現した工場」と説明したが、つい最近までこうした工場は存在しなかった。

「なければつくろう」ということで、2020年にチームクロスFAで手がけたのがデモライン「デジタル型ロボットジョブショップ」だ。こちらは私の最大のビジネスパートナーでもあり、唯一無二の友人でもあるオフィスエフエイ・コム・飯野英城代表らと共に作り上げた。

これは、「ジョブショップ」と呼ばれる機能別に配置された生産工程を、搬送を含めて自動化し、自律制御による最適生産ができるシステムとなる。デジタル(製品設計データ、BOMBOPMES、シミュレーションモデルなど)と、リアル(ロボット、AGV画像処理、各種自動機など)がデジタルツインを構成し、変化に強い生産ラインが構築できる生産システムとして開発した。

治具レスシステムによる自動段取り替え、生産投入指示コントロール、タクトや工程数需給変動対応、最適なエネルギーマネジメントなどを実現している。

新製品投入時にも設備投資額を最少化し、経営指標をリアルタイムに可視化、迅速な経営判断を可能にする。また、これらは、ISO国際規格に承認された三次元データ形式「JTフォーマット」を活用、製品情報(EBOMMBOM)や設備情報(BOE)を活用した工程設計、ISA95に準拠したBOP、製造実行指示、実績収集など様々なグローバルモデルを使う事で、日本国内にとどまらず、多くのメーカー(ソフト・ハード)とエコシステムを構築することができるよう、高い汎用性を備えている。

常時シミュレーションモデルを活用しながら、リアルタイムデータを取り込み、未来予測をしながらロボットを含めた各機器が連携して製品組立を行うため、ある工程でトラブルが発生したとしても、その工程を飛ばしてできる作業を続けるなど、従来は人の判断が必要であった部分をシステムが自律的に判断し、製造を続行できる。

工程間をAGVがワーク搬送をするデモ機や生産ラインは、各種メディアなどで目にされたことがあるかと思うが、「デジタル型ロボットジョブショップ」はデジタルツインを実現し、自律制御を実現しているという点で大きく異なる。また、各機能をモジュール化し、それぞれの接続をシンプルにし、多くの工程に柔軟に対応が可能なプラットフォームとして適用できるようにもしている。

(2022年6月25日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。