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識者の目

製造業DX実現のカギ~第15回

日本だからこそできる「製造業DX」

「日本はDX化が遅れている」これは、多くの有識者が警鐘を鳴らしている。新しいビジネスモデルが日本からではなく、海外から発生していることからも、残念ながら事実であると考えている。また、経済産業省や情報処理推進機構などの各種調査からも、企業のDX化については「全社戦略に基づくDX推進の変革を実施する段階への移行がこれから始まる」という段階で、着手さえされていない企業が大半というアンケート結果も存在する。

しかし、製造業DXに関しては、日本にこそチャンスがあると考えている。「DX」というと、デジタル技術が中心で、いかに情報化技術を使いこなすかで勝負が決まると考えている方も実際は多いが、製造業である以上「ものづくり」が必ず関係してくる。

そのため、情報化技術を使いこなすのももちろん大切ではあるが、「ものづくり」=「製造技術」と「情報化技術」をいかに連携させるかが重要になってくる。日本は「製造技術」で間違いなく世界トップクラスの実力をもっており、それに「情報化技術」を組み合わせることで製造業DXを強力に推進していくことができると考えている。

ここでは日本の「製造技術」の実力と、なぜ日本が製造業DXを実現できるのかを解説する。「製造技術」の中でも、デジタルファクトリー構築のために重要な要素は「自動化技術」である。日本は多くの自動化設備を国内で作ることができる数少ない国の一つである。

精度と耐久性の両立が求められる半導体製造装置、工作機械、産業用ロボットといった、世界シェアの上位を占める装置・機器はもちろん、鉄鋼、化学といった大規模プラントまで、日本企業なくしては作ることができない分野が多々存在する。

そのほか、食品から紙製品、家電、自動車まであらゆる製品の自動化装置は日本企業により手掛けられている。世界を見渡しても、これほど多様な自動化設備を作ることができる国はない。

自動化が進むことで、生産現場のリアルタイムデータをバーチャル工場に反映させることができ、そこでシミュレーションした結果を生産現場にフィードバックすることで、自律制御が可能になる。製造業DX実現には自動化推進は非常に重要な要素であり、日本にはその技術が高いレベルで蓄積されている。

第二の理由は「現場力」である。自動化がしにくい工程においては、人の作業が残り、そこにはノウハウが存在する。自動化された工程でも、その自動化や自動機を使いこなすノウハウがあり、それは現場に脈々と息づいている。

日本にはその現場力があるため、自動車、複合機などの部品点数が多く、複雑な工程を経る「言語化しにくい」製品では、高い競争力を維持しているという見方もできる。いくら最新の情報システムを入れても、それを活用できる現場がなければ、宝の持ち腐れになってしまう。これら2つの理由から、日本には製造業DXを実現するために不可欠な「製造技術」という土壌が整っていると考えている。

そして、「情報化技術」先行の海外と、「製造技術」先行の日本では、日本の方がよりその実現に近いポジションにいると確信している。

理由は明確で、「情報化技術」は既存の技術を応用しやすいが「製造技術」はなかなか応用しにくいからだ。GAFA(GoogleAmazonFacebookApple)のような企業を作るのは難しいが、製造業DX実現のためには何も全て自前で技術開発を行う必要はない。

「情報化技術」は、世界中のAIやSaaS(Software as a Service)から最適なものを組み合わせ、導入すれば良いのだ。そもそも日本の「情報化技術」が遅れているわけでもなく、多くのIT企業が存在し、有力なベンチャー企業も育ってきている。「製造技術」も自前で全ての技術開発をする必要はないが、自社で生産する製品にあわせて、その装置を使いこなすのは「製造技術」がないと不可能だ。

「自動化技術」「現場力」という「製造技術」を持っている日本が、「情報化技術」に対して本気で工作機械に取り組めば、製造業DX実現の重要かつ最初の一歩である「デジタルファクトリー」の実現を、多くの企業が世界に先んじて実現し、その先にある「製造業DX」の実現ができると信じている。

(2022年7月10日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。