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識者の目

製造業DX実現のカギ~第22回

「技術の見える化」への取り組み

「目指す業務プロセス策定」においては、試作出図に至るまでの「サイバー」と、それ以降の「フィジカル」という視点と、「システムズエンジニアリング」という考え方が重要になってくる。

システムズエンジニアリングの概念図(V字⇒目指す開発プロセス)【提供:電通国際情報サービス(ISID)】

試作を含む実機作成以降で手戻りが発生した場合、あまりにも大きなロスが発生するため、試作出図前のサイバーの段階、つまり3次元モデルや2次元図面の段階や、図面にまで至らずテキストや物理式、数値などでしかデータが存在しない構想段階などで、極力リスクを検証して手戻りを極小化するのである。

この考えは航空宇宙産業から普及し始め、今では自動車産業から、家電産業、重工業などに広がりを見せている。課題としては、図に示した「システム要求」からいきなり「部品設計」をする業務で運用している企業が多く、システム試験をした際に大きな修正点が見つかり、大きな手戻りが発生してしまうということがある。

これは、「システム要求」から「部品要求」までがデジタルでつながっておらず、途中のサイバー上での検証や要求項目の検討が甘いため、フィジカル上での試験も定義があいまいなまま進むため発生してしまう。システムズエンジニアリングにおいてはこのV字をしっかりつなげることが肝要となる。

また、このシステムズエンジニアリングの考えは「製品設計」の視点で語られることが多いが、「生産」「調達」といった部門にも適用するべきで、さらに部門を横断して適用することで一緒のプロジェクトを最適に運用し、利益の最大化につなげることができる。

「開発のプロセスは問題解決の連続である」とも言われるが、問題が起きてから解決していては遅い。心配ごと(リスク)をキャッチした瞬間から対処を考えることで、開発から量産までのプロセスにおいて手戻りを最小限にすることができる。製造業の皆様には是非この「技術の見える化」にも取り組んでいただきたい。

 技術の見える化によるメリットは手戻りの削減だけではない。例えば、最近業界での認知が広がってきたBOP(工程表)に、QC工程表、作業手順書などにも必要な情報を付加することで、各種帳票を自動で出力することなどもできる。

従来はそれぞれの帳票を作成する際のタイムラグが発生するため、何らかの変更があった場合、各種帳票の情報までは更新されないということもあった。また、類似の情報を入力するなどの二度手間が発生していたが、デジタルでつなぐことでそれらの情報精度の向上と工数削減の両方が達成できる。

■働き方改革にもつながる

複数部門間での「技術の見える化」では「コスト」に関してもメリットがある。例えば部品が調達品の場合、設計初期段階で「旧製品との共通部品」がわかれば、発注数量も増えるため調達担当者が調達先との交渉を有利に進められるであろう。部品検証も最小限で済む。内製品の場合も、新規設計部品を共通部品に置き換えたり、生産部門と連携して既存設備で製造できるものに設計変更することで、コスト低減ができる。

特に複数の部門担当者が携わる製品の場合に、この「技術の見える化」による効果は大きい。このように、目指すプロセスが見えてくると「技術の見える化」のプロセスも明確になり、システムが必要とする要件も見えてくる。

また、システム構築だけではなくシステムの「管理」も無視できない重要な視点である。計画だけではなく、実際かかった工数や手戻りが発生したポイント、内容を管理することで、さらにシステムの価値を高めていくことができる。また、工数を含めたリソースを予測するモデルができると、事業計画における「売上」「利益」がリソースの観点で達成できるかの確認もできる。人材採用や育成はもちろん、アウトソーシングなどを含めた計画を立案しやすい。

プロジェクトメンバーにとっても、突然の手戻りによる休日出勤や残業対応が減るだけではなく、計画通りのプロジェクト進行によって、さらにクリエイティブな部分にリソースが割り当てできたり、デジタルがつなぐ部門間の連携により、円滑なコミュニケーションにもつながったりと、本来の意味での働き方改革にもつながるであろう。自身の業務が会社や社会においてどのような役割を担っているかを認識することで、仕事のやりがいにもつながり、組織の活性化にもつながる。

(2022年10月25日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。