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製造業DX実現のカギ~第4回

デジタルがもたらす「未来予測」と「自律化」

モノづくりにおけるデジタル活用は人の置き換えのみならず、既に人では不可能な領域での活用も進んでいる。ビッグデータと呼ばれる大量のデータ解析などはその代表といえるだろう。

自動運転のような「自律化の実現」が製造業を変革する

例えば製造工場において不良率は収益性に直結する。特に半導体製造などの、装置産業かつ単価が高い製品においては、不良率の低減が生産現場の最重要課題とも言えるため、「最終検査工程の不良データ」と、「その不良発生原因の特定・解消」は長年の課題であり、現在も様々な企業が不良率の低減についてノウハウを蓄積させている。

半導体製造はインゴット製造からウエハ製造、洗浄、成膜、コーティング、露光といった複雑な工程を経て、ダイシング、ワイヤボンディング、封止などをして完成する。途中様々な検査工程があり、それぞれの検査項目をクリアした製品でも、実は最終製品でNG品と判定されてしまうこともある。

これは、各検査項目にも合格範囲に幅があるため、それらの組み合わせや状態によって最終検査で初めて不良と認識されてしまうのだ。しかし、このような不良原因の特定は、各工程特有の様々なパラメータが複雑に入り組んでおり、とても人では解析できない。工程ごとの温度、湿度、圧力、薬液投入量、タイミング、時間などデータが膨大すぎるのだ。

これらをデジタルデータとAIによる分析で解析することで、「どういう条件だと不良が発生しやすいか」を予測できるようになる。これは人間ではどんなに頭が良いとしてもとてもできない。そして、その条件を該当工程にフィードバックすることで、不良発生率を低減させていくのだ。

この人間の能力を超えたデジタルデータ活用は、半導体製造工場だけではなく、あらゆる業種において広まっており、「予知保全」「品質改善」「需給予測」などの用途で急速に活用が広まっている。

■DX実現につながる「自律化」

デジタル化によって実現できることはこれまでも述べてきたが、端的にまとめると「未来予測」と、その予測結果と制御技術を活用した「自律化」に集約される。自律化を実現することで、製造業の生産性が向上するだけではなく、DXを実現する一歩を踏み出すことができる。

未来予測のわかりやすい身近な例は、天気予報の例があげられる。過去及び現在の膨大な気象情報(各地の気温・湿度・風速・日照・雨量、気象状況・推移、上空の状態、衛星画像など)から、短期及び長期の天気を予測するのだ。緻密な観測網とデータの蓄積、それらの情報解析から成り立っている。

日本は気候の変化や地域による差も激しく、多くの自然災害を経験していることもあり、気象観測や天気予報に関する技術については先進国の中でも先行しているとも言われている。

自律化のわかりやすい身近な例は、自動運転ではないだろうか。多数のカメラ、LiDAR(光学式レーダー)、速度センサ、道路情報などから得られたデジタルデータを解析し、未来を予測して車を制御する。前方車両の減速(車間距離と自車速度で判断)や、ブレーキランプを検知した場合は自車も減速して追従する。急に人が飛び出してきたりした場合は急制動をかける。はたまた、前方車両がいなくなり、制限速度が認識できている場合は徐々に加速する。

これは「このままいくとこうなる」という未来予測と、設定した走行パターンに従うという「自律化」に他ならない。技術的には地図データと連動した、完全自動運転も充分可能だとも言われている。

工場においては、この自律化の実現が、「デジタル化」の大きなメリットの一つだと考えている。言い方を変えると、デジタル化ができないと自律化はできない。前述の自動運転にあてはめると、センシングデータが無いと自動運転ができないのと同じことである。

チームクロスFA代表 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『Team Cross FA』ではプロデュース統括を担っている。趣味は車、バイク、ゴルフなど。