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識者の目

製造業DX実現のカギ~第5回

データ活用による生産性向上と企業変革

製造業における「目の前の課題」の代表格に「生産性の向上」が挙げられる。一言で「生産性の向上」と言ってもそれには多くの要素が含まれている。そしてその要素一つ一つの課題解決に、デジタル化が大いに役立つ。

(公財)日本生産性本部によると、「生産性」とは「あるモノをつくるにあたり、生産諸要素がどれだけ効果的に使われたかということであって、それを割合で示したもの」と定義されており、「労働生産性(一人あたり・時間あたり)」「資本生産性」「全要素生産性」といった生産量が基準の物的生産性と、同様に付加価値額が基準の付加価値生産性があるとされている。詳細の算出方法は省略するが、いかに効率的に生産がおこなわれているかという指標である。

そもそも、この「生産性」の算出には「生産量」や「付加価値」といった分子に該当する指標と、分母に該当する「労働者数」「労働時間」「資本ストック量」「(労働+資本+原材料等)の合成投入量」が数値として必要になるため、何らかの形でデジタル化されている必要があり、例えば1カ月単位といった長期のスパンでは、ほとんどの企業で算出が可能な反面、「リアルタイム」に「個々の製品(ロット)」で算出できる企業はまだ少ない。

しかし、IoT化によりデータを可視化することで、それらをリアルタイムに確認することが容易になってきた。なかでも合成投入量については要素が複雑で、原材料費や設備費といった比較的計算しやすいものから、電力をはじめとしたエネルギー消費や製造に要する時間など計測しにくいものまで含まれているが、センシング技術の発達により、それらを計測する技術は汎用化している。

このIoT化によるリアルタイムかつ個々の製品の生産性のモニタリングにより、生産性が良い製品、悪い製品を明確にできる。また、生産性の良し悪しとあわせて、生産性を悪化させている指標を掘り下げ、そこを改善することが生産性の向上へと繋がっていく。

■デジタル化がもたらす企業変革

実はこの「改善」自体は日本の製造業の得意分野である。しかし、改善ポイントの発見は、熟練エンジニアの経験によるものが多く、だれもが気が付くものではなかった。デジタルデータを掛け合わせることで、熟練エンジニアはより本質的な改善ポイントや隠れた要素の発見ができ、新人エンジニアにも、それらが伝承しやすい環境を整えられることが、このデジタル化によるメリットの一つであると言える。

同じことを「品質の向上」にあてはめると、品質データのデジタル化により、品質の予測がしやすくなる。多くの社員がデータという武器を基に、今まで熟練エンジニアしかできなかった領域を幅広く対応することで、技能伝承、人手不足という課題解決にも寄与できる。また、特定の人に依存していた業務を幅広い人が分担したり、時間が掛かっていた分析や解析を自動化し、単純作業を減らしたりすることで、働き方改革にも大きなプラスの影響を与えることができる。

これら製造現場のデジタル化が、単純作業から社員を解放し、より創造性の高い業務に社員をシフトさせることにつながる。また、製造現場のデータだけではなく、「設計データ」「市場データ」「製品データ」などの様々なデータとかけあわせることで、製品自体の付加価値を上げる改善や新製品の開発、新事業の創出、新業態への進出など企業自体の改革をもたらすことを実現する。これがまさに製造業DXであり、デジタル化により製造業に起きる変革である。

(2022年2月10日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。