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識者の目

製造業DX実現のカギ~第6回

変化に強い「デジタルファクトリー」の構築

これまでの連載で、DXを実現するにあたって「デジタル化(数値化・言語化)」が必要不可欠であり、それは「未来予測」と「自律化」のために行うと述べてきた。

デジタルファクトリーの先鋒・R&F南相馬工場

未来予測した結果を現実に反映させる時にこの「デジタル化」は非常に重要となる。反映する現実世界も「デジタルデータ」を受け取れるということが重要なのだ。「シミュレーションモデルの作成」「その精度向上」「結果の現実世界への反映」これらは全てデジタルで行われる必要があり、だからこそ「デジタル化」が重要なのだ。

自動運転を例に説明すると、未来予測に必要なデータは「地図情報」「運転者の出発地・目的地」といった、デジタルマップ(静的情報)と、「渋滞情報」「現在位置」「速度」「周辺車両情報」といったリアルタイムデータ(動的情報)に分けられる。これらを統合して、シミュレーションモデルを作り自動運転に繋げているのだ。

しかし工場は自動車と比較しても段違いにそのデジタル化すべき要素やパラメータが多い。デジタルマップとなる工場設備や能力はもちろん、リアルタイムデータとなる製造品目、生産計画、さらには人によるオペレーションも複雑に関連してくる。

さらに、自動運転の場合はどの車でも基本的な地図情報は共通で活用でき、車両制御の情報も車種ごとにある程度共通化できる。しかし、同じ工場は基本的には二つとして存在しない。都度デジタルマップを作る必要があり、リアルタイムデータの収集方法も工場ごとにあわせてカスタマイズする必要があるのだ。そして、最新の車と違い、生産設備は数十年前のアナログな設備や、そもそも人が行う工程も多数あり、デジタルデータを受け取る環境が整っていない。

考えるほど難しそうに聞こえてしまう製造業のデジタル化、そこからの製造業DXであるが、それを実現するために必要なのが、次に解説する「デジタルファクトリー」である。

■リアルとバーチャルを融合

「デジタルファクトリー」とは何か? それはデジタルマップとリアルタイムデータ、そしてデータのフィードバックが可能な、生産設備や人が連携し自律制御を実現した工場である。自律制御によりリソースの最適化が行われ、環境変化にあわせて最適化された生産と工場運営を実現する。

リアルな生産設備やセンサからの情報を、仮想空間に構築されたバーチャル工場でシミュレーション、分析・解析を行い、最適なフィードバックをリアルな生産設備や人に対して実施、このデータループを繰り返して最適な生産を行うのだ。「デジタルツイン」を実現した工場とも言い換えることもできる。

これらのデジタルツインを実現することで、あらゆるリソースの最適化を行うことができる。ここで言う「最適化」は最小化とは違い、目的に応じた最適な制御を指している。

例えば、製品需要が高まり、時間当たりの生産数を最優先すべきであれば、エネルギー抑制よりも設備稼働率を優先する。逆に製品需要が低調で、コストを抑える必要があれば、最低限の生産を維持しながら、エネルギーをはじめとするリソースを最小限にする。このような、状況に応じた最適な制御が、デジタルツインの実現によって可能となる。

デジタルツインで効果がだせる主な管理領域としては、「生産・稼働・リソース管理」「品質管理」「在庫管理」「保守管理」「エネルギー管理」「物流管理」があげられ、それらの最適値を導くだけでも大きな生産性向上が見込め、変化に強い工場を構築することが可能となる。

そして、デジタルファクトリーは、単純に最適化された工場では終わらない。違う視点では、ドイツのインダストリー4.0で標榜される「第四次産業革命」をけん引する工場でもあり、製造業のDXを実現するための核となる工場にもなりうる。

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。