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製造業DX実現のカギ~第7回

デジタルファクトリーがもたらす恩恵

今回は「デジタルファクトリー」は従来型工場、特に自動化が進んでいるといわれる工場と何が違うかを説明したい。

自動化困難と言われてきたバラ積みピッキングも活用が拡大している

従来型工場とデジタルファクトリーとの決定的な違いは、人々の働き方である。従来型工場では、「人が行う仕事」と「機械が行う仕事」を、最初に「できるかできないか」、次に「単体業務を比較した場合のコスト」で仕分けし、分担してきた。

例えば人の能力を越える重量物の搬送であれば「人ができない」ために機械が行う。また、箱に整列された部品をコンベアに整列しなおす仕事は、人による作業の方がコスト的に有利なために、人が行うといった具合だ。検査結果の記録や、稼働状況や停止要因の記録なども、自動化するコストよりも、人による記録の方が安い場合は、人による記録を選択しがちである。

それに対し、デジタルファクトリーは基本的に自動化できるものは徹底的に自動化を行う方向で考える(もちろん全てではない)。そのことにより、先に述べたフィードバック制御が行いやすく、自律化された工場が構築しやすくなるためだ。例えば、稼働状態や停止要因の記録も、人で行う方がコスト的に安いかもしれないが、リアルタイム性や正確性を考えると、自動化をする方が有利ではないだろうか。その情報の価値や、その情報を活用して生まれる価値を考えると果たして人が記録するのが得策だろうか。そう考えて人が行う作業と機械が行う作業を切り分けていく。

さらに近年では、制御技術やAIに代表される分析技術も汎用化されてきて、コストも下がってきた。かつては自動化が難しいとされていた、バラ積みの部品を自動でピッキングする制御も工場や倉庫で普通に活用されるようになり、人の目の代わりとなる画像検査なども内容によっては人の能力を越えることも可能になってきた。

これらのことから、自動化すべき領域と、人がすべき領域の境界線が移動し、徐々に自動化すべき領域の面積が増えている。この流れは日増しに加速するのは明白である。

これらのことから、デジタルファクトリーにおいては、人々はより創造的な(自動化が難しい)業務に就くことになり、機械やPCと、人との役割分担ができるようになる。

■エンジニアへの需要が高まる

ここでよくある質問としては「では、デジタルファクトリーが進むと仕事が無くなる人がでてくるのでは?」というものであるが、答えはNoである。かつて洗濯機が普及し始めた時に、町の洗濯屋さんが無くなると騒がれたらしいが、実際にはクリーニング屋さんとして、現在でも多くの企業が営業を続けている。さらに、ライフスタイルの変化から、大型コインランドリーが盛況という話も聞く。

工場での仕事も、「今の単純作業」は無くなるかもしれないが、新たなデジタルファクトリー管理、デジタルファクトリー構築、どうしても自動化できない難易度の高い仕事といった業務にシフトするだけであると考える。もちろん50年、100年といった単位でみた場合は、SF映画に出てくるような「人が働かなくても良い世界」が来る可能性は否定しない。

もう一つは「新しい仕事が生まれる」ということだ。PCが普及する前に、「ITエンジニア」という職業は存在しなかった。YouTubeがなければ「ユーチューバー」という職業も無い。工場でも同じことが起こると考えている。工場の現場でモノを運ぶ仕事ではなく、デジタルファクトリーを開発・維持するエンジニアのニーズが高まるのだ。

私はファクトリーデザイナーと呼んでいるが、デジタル技術を駆使した工場のデザインや、システムの設計をするエンジニアが新しい職業として注目を集めるだろう。また、工場が自動化しても、人の判断の方が正確なことも多々ある。ロボットや自動機、各種センサと人が連携して、遠隔で工場を運営することも近い将来実現するであろう。

そうすれば、快適な事務所から工場勤務が可能になる。体格、性別、距離など様々な制約から解放され、工場勤務のイメージが変わる日も近いと考えている。

(2022年3月10日号掲載)

チームクロスFA プロデュース統括 天野 眞也
あまの しんや=1969年東京生まれ。法政大学卒。1992年キーエンス入社。2年目には全社内で営業トップの成績を残した「伝説のセールスマン」。2010年にキーエンス退社、起業。FA/PA/R&D領域におけるコンサルティング を行うほか、現在はFAプロダクツ、日本サポートシステム、ロボコム等の代表取締役、ロボットSIerによるコンソーシアム『チームクロスFA』のプロデュース統括を歴任。趣味は車、バイク、ゴルフなど。