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堀川団地(京都市)、アートと交流が紡ぐ自然体のまちづくり

レトロな趣を感じる背の低い団地が堀川通沿いに並ぶ

最初期の「下駄履き住宅」が再生

 高度経済成長期における住宅不足を支えた「団地」が、再生の時を迎えている。多くが建てられて半世紀の節目を迎え、躯体の老朽化は頭の痛い課題だ。住宅事情も様変わりするなか、どのように団地を次代につなぐべきか。日本で最初期の下駄履き住宅(1階が店舗で上が住居の集合住宅)として知られ、10年以上にわたりゆるやかな再生を続ける「堀川団地」にその答えを探った。
 堀川団地は京都市上京区にある、全6棟(うち1棟は解体済み、1棟は閉鎖)の団地の総称だ。区を南北に貫く堀川通沿い、約600㍍にわたって下駄履き住宅が連なる光景はどこか懐かしく、新旧の店舗が混ざる商店街には買い物客が行き交う。
 堀川団地が建設されたのは1950年から53年。運営管理を行う京都府住宅供給公社(以下公社)は「下駄履き構造は当時では非常に斬新。全国から視察が訪れ、商店街としても住宅としても華やかな時代でした」と往時を語る。
 しかし時が流れ昭和末期、堀川団地も老朽化が取り沙汰されはじめた。03年には耐震性不足も判明し、建替え問題が浮上。解体か再生か――岐路に立った堀川団地だが、議論の末、11年には6棟のうち中4棟を改修、南北2棟を建替える方針が策定される。そして文化の町、西陣の玄関口ならではの「アートと交流」というテーマで再生の道を歩みはじめた。
 実は堀川団地は、京町屋を立体化したような独特の空間構成をもつ。居室には漆喰仕上げの土壁など伝統技法が散りばめられ、その独創性が高く評価されているのだ。公社はこの趣を残しつつ大規模改修を実施。創作を行いやすい土間の広い部屋を作り、クリエイターを対象に居住者を募った。
 中4棟の改修が終わったいま、団地の居住者の約4割をクリエイターやアートを軸にした交流に賛同する新たな住人が占めるという。活動内容も職人や音楽家、文筆家など様々。もちろん改修前からの居住者もおり、幅広い世代、職業の人々がゆるやかに交流する独自の暮らしが生まれている。

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クリエイター向けの居室は土間を広く取って作業が行いやすいように改修

■今ある暮らしを尊重

 堀川団地のリノベーションを詳しく見たい。改修では耐震補強の一方、エレベータの新設やバリアフリー化など高齢者が快適に暮らせる環境も整えられた。元々は小さい部屋が多かったが、子育て世代向けに2戸を1つにつなげた「ニコイチ物件」も整備。先述のクリエイター向けの部屋や住人の希望で未改修の部屋もあり、同じ棟の中で様々な居住空間を混在させた。
 さらに2階には一続きの開放的なウッドデッキを整備し、住人の交流の場に。また商店街には多目的スペース「堀川会議室」を設置し、イベントや展示に活用してもらうなど世代も背景も様々な住人同士のつながりを育てている。
 こうした一連の取組みが極めて自然体で進むのが堀川団地の特徴だ。「無理に押し付けるのではなく、今ある暮らしを大切にしながら10年かけて再生を続けてきました」と公社の担当者は言う。
 「ある方は親子3代で住み続けられ、ある方は他の地域から移住し『堀川を元気づけたい』と頑張っておられます。仮に全棟を取り壊し新規開発すれば、今ほど地域の方々の気持ちがひとつの方向に向くことはなかったのでは」(公社)
 10年続く優しい再生。岐路に立つ団地の、ひとつの答えかもしれない。

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堀川通から見て裏手側、団地の2階に整備された開放的なウッドデッキ。ベンチも設けられており、様々な世代・背景をもつ住人たちの自然な交流を後押しする


(2022年9月25日号掲載)