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Green Recovery 「脱炭素社会と製造業」

トヨタはサプライヤーと共に脱炭素を進めていく

コロナ禍からの経済復興のカギとして提唱されている「グリーンリカバリー」。コロナ以前の社会に戻すのではなく、地球環境に配慮した経済発展を行うことで、地球温暖化の抑止や生物多様性の保全とともに、持続可能な社会を構築していくというものだ。このことは産業革命以来、二酸化炭素排出燃料に依存してきたモノづくりにも大きな影響を及ぼしている。欧米諸国を皮切りに、国内企業もサプライチェーンを含めたカーボンオフセットを続々と進めている。


2050年カーボンニュートラル宣言

政府によるグリーン成長戦略


2020年10月、日本政府は世界に向けて「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。さらに2021年4月には、2030年度の新たな温室効果ガス削減目標として、2013年度比46%の削減を目指すという新たな方針も示された。政府は温暖化への機敏な対応、脱炭素化で世界をリードしていく構えだ。


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■クリーン電力の供給がカギ?

2050年のカーボンフリー実現に向けて、大前提とされているのが電力供給の脱炭素化だ。現在の技術水準では、すべての電力需要を100%単一種類の電源で賄うことは困難であり、このため再生可能エネルギーを最大限導入していくことになる。

現状ではまだ割高なコストを低減し、蓄電池等も活用して変動する出力の調整能力を拡大していく。こうした取組を通じて、洋上風力産業や蓄電池産業、次世代型太陽光産業、地熱産業を成長産業として育成する。

火力発電については、CO2回収を前提とした利用を選択肢として最大限追求していく。技術を確立し、適地を開発し、併せてコストを低減していく。世界的にも、アジアを中心に火力は必要最小限、使わざるを得ないのが現状でもある。

また水素活用は供給量と需要量をともに拡大し、インフラを整備しコストを低減し、水素活用産業の創出を図っていくという。

原子力については、可能な限り依存度を低減しつつ、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、再稼働を進めるとともに、実効性のある原子力規制や原子力防災体制の構築を着実に推進する、とした。

一方で、国産エネルギーの安定供給に向け、分散するエネルギーリソースの価値を集約し、デジタル制御と市場取引等で活用するビジネスの推進や、それを可能にするグリッドの構築につながる次世代電力マネジメント産業の育成にも注力していく。

■デジタル基盤で脱炭素化を促進

産業部門では、水素還元製鉄など製造プロセスの変革やマテリアル産業の成長が必要である。運輸部門では、電動化を推進しつつ、バイオ燃料や水素燃料を利用していく必要がある。業務・家庭部門では、住宅・建築物のネット・ゼロ・エネルギー化や電化、水素化、蓄電池活用が期待される。こうしたことを踏まえ、水素産業、自動車・蓄電池産業、運輸関連産業、住宅・建築物関連産業を成長分野として育成する方針が明確になった。

また、カーボンニュートラルを目指す上では、こうしたエネルギーの需給構造の実現だけでなく、電力ネットワークのデジタル制御も課題となる。グリーン成長戦略を支えるのは、強靱なデジタルインフラであり、今後は半導体・情報通信産業も成長分野として育成していく方針だ。

今後、政府はこれまでガソリンエンジンの変速ギアを製造していた中堅・中小サプライヤーが、電動車用モーター部品の製造に新たに挑戦するといった取組を積極的に後押ししていくという。また、このような新たな挑戦に取り組む産業界のニーズを踏まえながら、人材育成に取り組む事業者やスキルアップに取り組む労働者への支援を中長期的に行っていくとしている。


サプライチェーンに求められる脱炭素化

カーボンフリーが企業競争力へ


米アップル、トヨタ等大企業が相次いで打ち出す「サプライチェーンを含めた脱炭素化」。今後カーボンオフセットに取り組まない企業は、サプライチェーンから外されることになるといっても過言ではない。こうした動きは欧米のみならず、今後世界全体で加速していくものと見られている。


■最終消費者に「脱炭素代」を転嫁?

世界3大コンサルティングファームの一角、ボストン・コンサルティンググループによるサプライチェーンの脱炭素化についての最新レポートによると、「ほとんどのサプライチェーンにおいて、正味のCO2排出量ゼロを達成するためのコストは驚くほど低い」と記されている。中期的には最終消費者の価格上昇は最大で4%程度にしかならない、と言う。

例えば同レポートによると、販売価格35000ドルの自動車に使われる鉄鋼をゼロカーボンの鉄鋼に置き換えると鉄鋼メーカーのコストは大幅に増加し、場合によっては50%もの増加になるという。しかし自動車の総コストに占める鉄鋼の価格は約1000ドルに過ぎず、最終製品となった段階での自動車価格は、すべてゼロカーボン素材で生産しても約600ドルと2%ほどしか価格上昇しないという。これをどう捉えるか、だ。

他産業に比べて成熟しきったサプライチェーンが形成されている自動車産業において、メーカーが川下に求めるのは1にコストダウンと品質、2にコストダウンと品質、3も同様だ。「原材料調達価格の高騰も、値上げ材料にできない」という下請け会社がメーカーに対し「カーボンフリーの製品を納めるので価格を見直してください」は果たして通用するのか、甚だ疑問である。

また、最終製品の価格上昇はたとえ数%でも下請企業は競争力を失う可能性を秘めている。 こうした中、サプライヤーが取引先に対して、どのようなアプローチで脱炭素化を推し進めていくのかに注目が集まっている。

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■トヨタは中小企業に向け支援策を

2050年までにサプライチェーン全体を含めた脱炭素に取り組むとしたトヨタは、主要取引先に対し、2021年のCO2排出量の削減目標として2020年よりも1ポイントマイナスとなる前年比3%減を要請。生産活動で排出されるCO2削減目標に加え、サプライチェーン全体での排出量の可視化と、全方位での排出量低減活動の二つが提示された。

また中小企業に対しては、CO2排出量を可視化するツールをトヨタが提供したり、サプライチェーン内での取り組み事例を共有するなどといった支援策を充実させる。こうした活動は川下の取引先にも拡大していく方針であり、いずれは中小企業にまで波及させていく構えだ。

欧米でも独ダイムラーが2039年、独フォルクスワーゲンが2050年をめどにサプライチェーンの脱炭素化を目指すとしており、世界的にその輪は広がりつつある。今後の競争力を維持するためにもサプライヤーは脱炭素への転換を余儀なくされると見てまず間違いないだろう。

では、中小企業はいかにして脱炭素へ取り組むべきなのだろうか。環境省では、民間企業等がパリ協定に整合した意欲的な目標を設定し、サプライチェーン全体で効果的に温室効果ガス削減を進める取り組みを促進するため、中小企業に向けた「SBT・再エネ100%目標設定支援事業」を近年、継続的に実施している。令和3年の一次募集は8月に終了しているが、10月ごろに二次募集を実施するという。

パリ協定と整合したレベルの高い温室効果ガス削減目標であるSBT目標は中小企業でも設定でき、脱炭素社会における競争力の保持に繋がるだろう。