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対談:新コスモス電機×山善「もっと早く、火災を見つける。」

プロジェクト始動
火災で亡くなる人を一人でも減らす

メーカーとして、商社として出来ることとは

「PLUSCO(プラシオ)」は、従来の火災警報器(煙式)に一酸化炭素(CO)センサをプラスした、新しい火災警報器だ。一酸化炭素100ppmを検知すると、LED点滅と音声で一酸化炭素注意報を知らせるとともに、煙センサの感度を自動的に2倍に引き上げ、より早く火災を知らせる (CO反応式)。住宅火災の発火源別死者数は、たばこが最多となっており、また就寝中の事故が多いことがわかっている。寝たばこによる布団のくん焼火災は、特に一酸化炭素が発生するケースが多く、一酸化炭素を検知することでより早く火災を知らせる「PLUSCO(プラシオ)」が、逃げ遅れ防止に役立つ。

世界で初めて家庭用ガス警報器を開発した新コスモス電機と山善の家庭機器事業部は共同で、火災時の一酸化炭素中毒による死者数を減らすための、「もっと早く、火災を見つける。」プロジェクトを8月1日に発足した。メーカーとして、商社として火災で不幸にして亡くなる人を一人でも減らすために出来ることについて新コスモス電機・代表取締役社長 髙橋良典氏と山善・取締役 上席執行役員 家庭機器事業部長 中山尚律氏に対談してもらった。

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火災警報器義務化でも大きく減らない死者数


本紙 住宅で火災警報器の設置が義務化され10年以上になりますが、火災によって亡くなられる方は大きく減っていないと聞き驚きました。

髙橋 2011年にすべての住宅で火災警報器の設置が義務化されました。今では普及率が8割と言われています。

中山 我々も2011年ごろに一気に火災警報器の販売をしましたね。

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髙橋 義務化された2011年時点では、建物火災で亡くなられた方が1339人いました。その後2016年以降は横ばいで、2021年も依然として1165人の方が亡くなっています(グラフ①)。火災警報器が義務化されれば、死者数が急減すると期待されていたものの、実際は下げ止まったわけです。その原因の一つとして考えられるのが、死因の約4割を一酸化炭素中毒・窒息が占めているという点です(グラフ②)。

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中山 建物火災の死者数がほぼ横ばい状態であることを知ってショックを受けました。いかに、不幸にして命を落とす方を減らしていくか、知恵を絞る必要がありますね。

髙橋 ガスセンサをずっとやってきた我々としては、一酸化炭素が原因であれば、一酸化炭素センサを付ければいいのでは、とまず考えました。しかし『火災警報器』として消費者に届け、普及させなければ、不幸な死者を減らすのに貢献できません。一酸化炭素を感知しただけでは、検定規格上『火災警報』を出せないのです。

中山 一酸化炭素は暖房機器などでも発生するので、一酸化炭素の濃度が上がったからと言って火事であるとは断定できないわけですね。

髙橋 煙か熱を感知しないと火災警報は出せません。そこで研究を重ね一酸化炭素100ppmを検知すると煙センサの感度を自動的に2倍に引き上げる、一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」を開発しました。従来の火災警報器が通常煙濃度5~15%/㍍で火災警報を発報するところを25~75%/㍍と約半分の煙濃度で発報するので、より早く火災をお知らせすることが可能となります。


一酸化炭素検知で煙センサの感度2倍に


中山 火災とは断定できなくても、一酸化炭素を検知した時点で「一酸化炭素を検知しました」と注意報が鳴るのでそこで異変に気づけますね。

髙橋 その通りです。その後、煙センサの感度が上がるので通常の火災警報器より約4分早く火災警報を出すことができます(グラフ③)。

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本紙 高機能ゆえに販売価格が割高になってしまいますね。

中山 2011年ごろは比較的適正な価格だった火災警報器ですが、多くの企業が参入し、低品質で低価格の外国製も流入して価格競争になった今では3000円を切るものも多いですね。「PLUSCO(プラシオ)」の有効性をいかに消費者にお伝えできるかが重要になってきます。


プラシオ拡販で死者を減らす


本紙 そこで新コスモス電機と山善が共同で 「もっと早く、火災を見つける。」プロジェクトを立ち上げられたと。

中山 SNS配信や展示会、家電量販店やホームセンターなどへの拡販、火災実験室「PLUSCO Lab.」(プラシオラボ)の火災実験などを通じて一酸化炭素の怖さを伝えるとともに「PLUSCO(プラシオ)」の認知向上に共同で務めていきます。

本紙 山善の培った量販のノウハウも活用されますか。

中山 新コスモス電機様はBtoC向けの流通は初めてとのことで我々家庭機器事業部の販売ルートにより一般市場への流通を広げるとともに、これまで培った量販での知見を共有させていただいています。例えば、当初、非常にハイセンスで高級感あるパッケージにされていましたが「より店頭でお客さまに手に取ってもらいやすいパッケージ」の経験をフィードバックしました。

髙橋 これまでほとんどがBtoBのビジネスで、本格的なBtoCは初めてです。ノウハウを持つところとコラボしなければならないといろいろ探す中で山善様に出会いました。「一人でも火災で亡くなる命を救いたい」という思いに一番共感していただいたのが山善様でした。

中山 この商品はいいね! どんどん売っていこうとなりました。家電量販店などと商談すると仕入れ担当者はみな「これは素晴らしい商品だ!」と感激して一気に店頭に並びました。問題はその先、店に並べても、消費者には伝わりづらいので動きは決して良くないです。ただし、どこかのタイミングでハネると確信しているのでさまざまな施策を駆使していきます。

髙橋 我々も発信力を強化していきます。BtoB企業だったので広告宣伝に力を入れてこなかったのですが、ネットやSNS、さらにTVも含め山善様のお知恵も借りながら発信を強化していく必要を感じています。

本紙 ほかにも起爆剤となりそうなのが「PLUSCO Lab.」(プラシオラボ)ですね。

髙橋 兵庫県三木市に火災実験の見学施設「PLUSCO Lab.」を510日に開所しました。布団くん焼火災実験、天ぷら火災実験などを通じて一酸化炭素の恐ろしさと「PLUSCO(プラシオ)」の有効性を知っていただく施設です。小中学生の方も含め多くの方に見学に来てもらっています。さらにたくさんの子どもたちに来ていただきたいので、試行錯誤を重ねながらテーマパークのような楽しさも加えていきたいですね。

中山 私も見学しましたが天ぷら火災の実験は派手ですが布団くん焼火災実験は地味ですね。しかしその地味さが目に見えない、臭いもしない、しかし毒性が高い一酸化炭素の怖さを物語っていますね。元プロ野球投手の方が亡くなった火事の話が例に出ましたが、火災のあった部屋ではないところにいて一酸化炭素中毒になったということに、衝撃を受けましたね。

本紙 京アニ放火事件も大阪クリニック放火事件も一酸化炭素中毒で多くの方が亡くなったと言われていますね。

髙橋 ニュースになって皆さん見ているんですが、一酸化炭素の恐ろしさというのはすぐに忘れられてしまうんです。

中山 ニュースには火や煙は映りますが、見えない一酸化炭素は印象や記憶に残りにくいのかもしれませんね。

髙橋 当社の使命は、平たく言えば「世界中のガス事故をなくす」です。一酸化炭素も有毒ガスです。担当者は「俺が死者を一人でも減らすんだ」と意気込んでいます。まずは、2027年までに一酸化炭素で亡くなる人の割合を約40%から30%に下げたい、そのために売らないといけない数が60万台と見積もっています。

中山 我々は商社で、生活を便利に、快適にする商品を届けていますが、命を守る商材は多くはありません。社会的意義のある商品であり、たくさん売ることが命を守ることにつながるので、全力でやります!ともに、未来を切拓きましょう。


プラシオラボ開所


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煙感知式の火災警報器では発見が遅れる恐れがある布団くん焼火災を再現

新コスモス電機は5月10日、兵庫県三木市に火災実験の見学施設「PLUSCO Lab.(プラシオラボ)」を開所。布団くん焼火災、天ぷら火災などの実験を通じて昨年9月に発売した一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」の認知向上を目指す。

プラシオラボではまずIHコンロによる天ぷら火災の再現実験が行われた。IHコンロでも鍋底のへこみや油の少なさなどの悪条件が重なると発火することもあるという。過熱を開始すると煙が上がり、やがて天井に届くほどの火柱が。当然火災警報器が鳴り響く。

インパクトのある実験が行われている部屋の横で、寝たばこによる布団の火災を再現した布団くん焼火災実験が静かに進行していた。煙はほとんど上がらず、しかし確実に一酸化炭素の濃度が上がっていく。

「天ぷら火災のように火が上がる火災は、発見が早く死者が出ることは少ない。それに比べて寝たばこで布団が燃える火災は発見が遅れ、命を落とす方は多い」(担当者)とする。

2011年よりすべての住宅へ住宅用火災警報器の設置が義務化されたにもかかわらず、当初の予想より死者数は大きく減らず、現在も住宅火災により年間約900人の尊い命が失われる。その原因の多くを占めるのが無色無臭ゆえに「サイレントキラー」ともいわれる一酸化炭素であり、派手さのない実験がその怖さを象徴する。

30分後も布団の表面に変化はないが、中では小さな火が燻り続けている。その時、一酸化炭素100ppmを検知しプラシオの一酸化炭素注意報がけたたましく鳴り響き「一酸化炭素を検知しました」とアナウンスを始める。火災警報ではないが住民はここで異変に気付くことができる。通常の煙センサのみの火災警報器はまだ沈黙したままだ。

プラシオの煙センサの感度がここで5~15%/㍍から2・5~7・5%/㍍へ高まる。その機能が特例基準(CO反応式)として総務大臣より認められている。約20分がたちプラシオの火災警報が発報された。

煙センサのみの火災警報器が警報を出したのはその約4分後であった。住宅火災の死者の48.9%が「逃げ遅れ」だ。4分の時間の差が生死を分けるかもしれない。

(2023年10月25日号掲載)